第六十二章 トンの町 1.訓練所訪問
いつものようにSROにログインして、いつものように朝食を摂ったシュウイは、しかし今日はいつもと違う行動を取る事にした。
「明日は祖父ちゃんのところへ行くために、早起き早出をしなくちゃならないからね。今日は早めにログアウトしないと。遠出はできないから、町の中でできる用事を済ませるか」
街中でやれる事で懸案になっているのは特殊鋼の開発だが、これは現在のところテムジン次第となっていて、シュウイが関与する余地はほとんど無い。第一、昨日のうちに必要な打ち合わせなんかは済ませている。
次に思い付くのは、市場に出かけて素材となりそうなものをあれこれ探す事だが、さすがにそれだけで半日を潰すほどではない。
どうしたものかと考えていたシュウイが思い付いたのは、明日に迫った第二陣の参入の事、そして、明日以降はこの町が第二陣の新人たちでごった返すだろうという事であった。なら、混雑してない今のうちに、あれやこれやの用事を済ませておいた方が良いだろう。例えば、冒険者ギルドでの訓練とか。
・・・・・・・・
「……あぁ、そういう事なら構わんぞ。訓練場はそこを真っ直ぐ行った突き当たりだ……てぇか、お前はこないだ来てたよな?」
「四日前の事でしたら、あの時は知人を案内しただけなので」
「今度はお前自身が訓練を受けるって訳か? まぁ、しっかりやるんだな」
シュウイが訪れたのは冒険者ギルドの訓練場であった。タクマがナンの町で対人制圧技術、所謂「捕り手術」を修得し、それがきっかけでクエストが発生したらしいと聞き、自分でも少し確認しておこうという気になったのである。
シュウイこと蒐一が祖父から教わった歌枕流には、当然のように「捕り手術」も含まれている。ただ、歌枕流の「捕り手術」が、このSROの中でも通用するか、あるいは容認されるかは不明である。例えば、歌枕流では目潰しとか金的蹴りも当然の技術として教えられるが、SROの中でそれが認められるかどうかは判らない。最悪、反則攻撃と見なされて無効判定される事だって絶無とは言えないのだ。
(それを確かめるには、一度ここで近接格闘術の訓練を受けて確認するのが手っ取り早いよね。明日以降だと混雑するだけでなく人目も多いし……変に絡まれる可能性も無いとは言えないよね)
修験者の護身術として発達した歌枕流は、実戦本位の古武術だけあって、かなりえげつない技も普通に含まれている……人目に曝すのは憚られるようなものも。なら、今のうちに確認しておいた方が面倒が無い。そう判断したがゆえの訓練場訪問であった。
「おぅ、シュウイじゃねぇか。今日はお前が訓練か?」
「お早うございますドウマさん。残念ながら今日は弓じゃなくて、格闘……いえ、近接戦闘の稽古をお願いしようと思って」
「近接……あー……短剣で渡り合ったり、素手で殴り合ったりってやつか?」
「えぇ。教わる事ができますか?」
「この辺りじゃあんまり必要の無いスキルになるんだが……まぁ、形程度ならやってるな。あそこで退屈してるのがその担当だ。ザファルってしょうのねぇやつだが、俺からの紹介だと言えば、ちったぁ真面目に教えてくれるだろうよ」
――と、些か困惑させられる人物評とともに、ドウマはシュウイが望む相手を教えてくれた。
ザファルと呼ばれたその教官は、年齢不詳のエルフの男性だった。




