第六十二章 トンの町 2.近接戦闘の果て
シュウイはドウマに一礼すると、そのままトコトコと歩いて行った。何の気負いも無く自然体に見えるが、実際にはその歩きぶりに微塵の隙も無い。果たしてここの住人にそれが見抜けるか。シュウイが仕掛けた一つのテストであった。
ザファルと教えられたそのエルフは、シュウイが近づくのを面白そうな目で見つめ、身体をシュウイに向けた。その距離は、シュウイが攻撃の間合いと見ているものよりやや遠い。
(祖父ちゃんと同じくらいの間合いかな……)
シュウイは一旦そこで停まって、敵意の無い事をアピールする。
「ザファル教官ですか? ドウマ教官に言われて来ました。貴方が近接戦闘を教えて下さると」
「確かにザファルは私だが……君なら今更その必要は無さそうに思えるが?」
へぇ……プレイヤーの力量もある程度判別するのか……凄いな、ここのAI。
「異国から来たもので。こちらの流儀を知っておきませんと、不覚を取るのは怖いですから」
「ふむ……良いだろう。君の相手は少し荷が重そうだが、仮にも指導役が逃げ出す訳にもいかないしね。得物は?」
おぉ……いきなり実戦的な訓練か。まぁ、僕にはそっちの方が都合が好いけど。
「僕は素手で。教官は、何か適当な武器を使ってお願いできますか?」
「成る程、捕り手術の訓練という訳か。この辺りではまだ必要の無い技術だが?」
「近いうちに隣の町まで足を伸ばす予定があるもので」
「予め稽古を積んでおこうというのか。その意気や良し。なら、まずは盗賊どもが使う事の多い剣で相手をしよう」
「お願いします」
最初のうちは僕も教官も、軽く流す程度で型をなぞっていった。て言うか、SROにも型ってあるんだね。密かに懸念していたとおり、「剣」の動きや術理は、僕が習った武術の動きとは違っていた。うっかり剣スキルとか取ってたら、覚えのない動きに戸惑ってただろう。下手をしたら命取りだよ、これ。
剣の動きや体捌きが違うという事は、捕り手術の動きにも修正が必要になる。僕は教官の動きをしっかりと見て、自分の動きを修正していった。これ、タクマのやつも結構戸惑ったんじゃないか? いや……あいつは直感で動く方だから、あまり細かな違いには気付かなかったかもな。ある意味羨ましいよ。
頭の隅でそんな事を考えながら、半ば無心に型をなぞっていると、手に妙な感触を覚えた。不審に思って手元に視線を落とすと……いつの間にか手に剣が握られている。慌てて教官の方を見ると、そこには呆然とした教官が立っていた……無手で。
いつの間に剣を奪ったのか奪われたのか、お互い狐に抓まれたような思いで稽古を再開したんだけど……
「……驚いたな。まるで気が付かないうちに剣を奪われるとは……」
そりゃ、奪った方の僕も気付いていませんから。
「それが故郷の捕り手術というやつか?」
「そう……なんですけど……少し違うというか……」
「あぁ、冒険者の手の内を詮索するのは御法度だ。気にしないでくれ」
「いえ……はい……」
「だが、それだけ使えるならシアの町に向かっても大丈夫だろうな。私が太鼓判を押そう」
はて、何かの情報だろうか――と、思う間もなく
《プレイヤーが【捕り手術】を取得しました》
《プレイヤーのスキル、【掏摸】の特殊進化が派生しました》
《プレイヤーが【奪刀術EX】を取得しました》
……え? 何なの、それ?




