第六十一章 篠ノ目学園高校(火曜日) 2.放課後
今回も少しだけ長めです。
放課後、蒐一たち四人は誰もいない教室に居残っていた。
今日は早く帰ると言っていた蒐一であったが、結局昼休みには自分の状況を話すだけで終わってしまい、他の三人の近況も聞かないと不公平だと言い出したのである。少しくらいなら遅れても問題無いという事で、寄り道ではなく教室に居残っての歓談と相成ったのであった。
「……と言われても、私たちの方は昨日と変わりがないわよ?」
「ん! お師匠さまに言われた事を、一所懸命やってただけだもん」
「てぇ事は……話すのは俺って事になるな」
「匠の方は進展あったんだ?」
「おう、実はな……」
匠は昨日自分たちの上に起きた出来事を語っていく。弟子入りクエストをクリアして、首尾良く「剣豪」の弟子となった事、【捕り手術】を取得した事、【介者剣術】に進化させるかどうか保留中である事、追捕クエストについては――ギルドから釘を刺されているので――黙っておいたが、死霊術を取得した斥候は死霊に出会えなかった事、魔術師は召喚に成功したが、なぜか召喚されたのはフクロウだった事、召喚早々から好感度が高かった事、斃した事の無い筈のフクロウの召喚に成功した理由……などを話していった。
「……随分と盛りだくさんじゃないか、匠」
「そうね、蒐君に負けず劣らずの成果よね」
「蒐に喩えられると、褒め言葉に聞こえないのがなぁ……」
「何でだよ……それはともかく匠、お前、『剣豪の弟子』っていう称号が付いたのか?」
「おう。何でだ?」
「いや……僕もバランド師匠の弟子の筈なんだけど……そういう称号は付いてないからさ……」
「「「あー……」」」
やや不本意そうに凹んだように言う蒐一に、どう答えたものかと困惑していたが、やがて要が解らしきものを見つける。
「思うんだけど……蒐君は【調薬(邪道)】をじかに教わっている訳じゃないでしょう? その辺が原因じゃないかしら」
「「あー……」」
「そういう事か……」
要の説明に、一応納得する蒐一。弟子扱いされていないと考えるよりは気が楽だ。
「いえ……ちゃんと弟子だって言ってもらえたんでしょう?」
「まぁね……それはそうと、匠はどうすんだ? 【捕り手術】」
【捕り手術】のまま上級を目指すのか、【介者剣術】に進化させるのか。これはこれで悩みどころである。
「多分……どちらが正解・不正解っていうのじゃないんでしょうね」
「どっちを選んでもそれなりかぁ」
「で、どうすんだよ?」
「あ~……前にも言ったけど、【捕り手術】の技術だけなら蒐に教わる手もあっからなぁ……【介者剣術】に進化させようかと思ってる」
「ねぇねぇ、【捕り手術】のままにして、蒐君に介錯剣法を習うのは駄目なの?」
「茜ちゃん、最初に言っとくけどさ、介錯じゃなくて介者、鎧武者って意味だから」
介錯というのは、切腹した者を楽にするために首を刎ねる事であるから、内容は全く違っている。
「その上で言うけどさぁ、歌枕流に『剣』術は無いから」
「確か、扱い方が異なるのよね? 剣と刀は」
「そう。術理が違うから、僕の流儀を習っても、それが『剣術』と見なされるかどうか判らないよ? SROには日本刀の技術って無いんだろ?」
「確かに、まだ発見されちゃいねぇな」
「寧ろ無いのが怪しいという意見も多いみたいだけど」
「ねぇねぇ、だったら蒐君に習ったら、刀のスキルが解放されたりしないかな?」
茜の提案に心惹かれかけた匠であるが、当の蒐一から待ったがかかる。
「SROで出回ってる剣だと、巧く斬れないと思うよ? きちんとした日本刀の形でないと。それこそテムジンさんにでも作ってもらわなきゃ駄目なんじゃないかな」
「どっちにしても、まだ先の事になりそうね」
その話はひとまず措いて、次は死霊術と召喚術である。
「結局、斥候の人は死霊に出会えなかったんだよね?」
「おう。夜になって墓場まで行ってみたんだけどな。どこにでも出るって訳じゃねぇみたいだな」
「今までに出た場所は判ってるのか?」
「まぁ……判っちゃいるんだが……虚ろな目をしてブツブツと意味の通らない言葉を呟くだけの幽霊とか、な……」
「うわぁ……」
「それは遠慮したくなりそうね……」
「ま、連休明けにクエストをこなしてから考えようって事になってる。あ、クエストの内容は訊くなよ? ちょっとばかり差し障りがあるから」
「――諒解、で、フクロウの事はどうなんだ?」
「あれもなぁ……」
マギルたちは町に戻る途中でモフモフ友の会の連中に遇って質問攻めにされたらしい、と語る匠。
「モフモフ友の会?」
「何だかそういう名前の連中らしいぞ?」
正確には、違う。
正式名称は「不遇な使役職のための集い」であり、通称が「使役者友の会」である。まぁ、匠の言い方の方が実情には近い気もするが。
「まぁな、その連中が言うには、最初の召喚獣については戦歴に無関係に選ばれる事が偶にあるらしい。ただ、トンの町周辺に出てくるものが多いらしいけどな」
「斃した事の無いモンスターでも召喚できる――って事だよな?」
「そうだ。続けるぞ? 俺たちが斃した事の無いフクロウをマギルが召喚できたのもそのせいだというなら、これはまぁおかしくもないんだが……好感度が問題らしい」
「好感度?」
「あぁ、マギルにくっついて離れようとせんのだわ。送還しようとしたら嫌がるらしい」
「え? 送還?」
驚いたように蒐一が聞き直すが、MPを温存するために、召喚獣は普段は出しておかないのが普通なのだと教えられる。
「そっかー……考えた事も無かったよ、僕。……シルはずっと一緒にいるのが当たり前のように思ってたし……」
「まぁ、シルちゃんは召喚獣じゃなくて従魔だし」
「それはそれで良いんじゃない?」
「……続けるぞ? 友の会の連中が言うには、召喚したばかりの召喚獣がそこまで懐くのは異例らしくてな。色々訊き出していたらしいが、餌付けがキーなんじゃないかって話になったらしい」
「餌付けなんかしてたんだ……」
蒐一が言えた立場ではないのだが。
「つぅか、要らないドロップ肉を投げてやっただけなんだけどな。とにかく、それが原因で召喚獣が懐くんなら、従魔契約にも使えるんじゃないかって、随分興奮してたって聞いたぞ」
「あぁ……そう言えば確かに、昨夜はずいぶん従魔板が盛り上がっていたわね……」
「ねぇねぇカナちゃん、これって、あたしたちにも大事な事よね?」
「そうね。……匠君、もう少し詳しい話を聞かせてもらえるかしら?」
「良いぞ。まずな……」
結局、蒐一は予定よりも遅く家に帰り着く事になったのであった。




