第六十章 ナンの町 2.追捕クエスト
「おぅ、首尾良くスキルを得たみてぇだな。丁度好い。お前らに受けてほしい仕事がある」
訓練場から出てきたばかりのタクマとサントに、冒険者ギルドの職員が声を掛けた。
「俺たちに?」
「何すか?」
「おう、実はな……」
ギルドの職員から持ちかけられた依頼は、タクマたちの予想外であり、またある意味では予想されていたものでもあった。
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「追捕クエスト?」
「あぁ。脱走犯を追いかけて捕まえてくれって依頼だ」
「そりゃまた……警察権の委譲じゃないかよ。そんな事までプレイヤーにやらせんのか、SROは」
「あくまで一時的かつ限定的なものだからな。賞金首を追うのとあまり変わらん。そう考えれば、別におかしくはないだろう」
「問題はタイミングだよな。タクマが【捕り手術】を覚えたのを見計らうようにクエストが発生した訳だろ? 無関係な筈は無いよな」
「で? 受けたのか?」
「いや。お前たちと相談する必要があると言って、少し待ってもらってる。明日には返答しなくちゃならん」
「「「「う~ん」」」」
仮にも攻略パーティの一角である「マックス」が、こうも逡巡するのには理由がある。攻略パーティとは言っても、彼らは基本的に戦闘職だ。脱走した犯罪者を追跡して、その所在を突き止め、密かに包囲して、捕縛する……などという複雑な作戦を実行した事は無いのである。まして、今度の相手はモンスターでなく人間、それも、できるだけ生け捕りにしろという依頼である。正直なところ、今までこなしてきた依頼内容と違い過ぎて、完遂できるかどうか自信が無いのだ。
「けど……多分こいつが、次の町へ進むためのキーだよな」
「少なくともキーの一つだろう」
「リーダー、これって、俺たちだけでやらなきゃ駄目なのか?」
場合によっては他のプレイヤーの支援を……と考えたようだが、それはあっさりと駄目出しされる。
「一応は捜査上の守秘義務に当たるらしくてな、他のプレイヤーに話す事は禁じられた」
「勝手に話すと、冒険者ギルドからの除名もあるそうだぜ」
うわぁと引く中、腕を組んで考え込んでいた壁役のバルトが口を開く。
「多分だが……これは捜索系のクエストではない筈だ」
一同が揃って視線を向ける中、バルトは訥々と自分の考えを述べる。
「依頼の来たタイミングが、何らかのスキルを取得、もしくは有効化した時点を反映しているとするなら、一番怪しいのはタクマの【捕り手術】だろう。こっちの二人が得た【召喚術】もしくは【死霊術】がキーになっている可能性も考えられなくはないが、ログを確認した限りじゃ、タイミングが少しずれてるようだ。何より、依頼を持ちかけられたのがそっちの二人で、ギルドに戻って来た魔術師と斥候には何の話も無かったからな」
一旦言葉を切ったバルトであったが、他の面々から異論が出ないのを確認すると、そのまま話を続ける。
「で、タクマの【捕り手術】がキーになっている以上、クエストに必要な条件もそれだろう。これがバリスの【死霊術】とかだったら、捜索系のクエストである可能性も除外できなかったんだがな」
バルトの意見はなるほど納得のいくものであり、他の面々も頷いて同意を示す。
「てぇと……クエストの成否はタクマ次第か?」
「俺たちにもできる事はあるだろうがな。で、そういう事情を踏まえてタクマ、やれそうか?」
薄々覚悟はしていたものの、改めて筋道だって説明されると、自分の責任の大きさが解る。クエストの成否が自分のスキル次第だとは……中々覚悟を問われる状況だ。しかし……こうなると進化先は【捕り手術】で決まりか?
「……いや、一旦クエストを受注してしまえば、【介者剣術】に進化させるのもありなんじゃないか? と言うか、そういう選択肢がある事自体、重要なヒントなんじゃないのか?」
「お? リーダー、何か考えがあんのか?」
「いや? 山勘だぞ? ただな、何となくだが、こりゃあ重要な気がすんだよ」
「……サントの山勘は結構当たるからな」
「間違い無いだろう。このクエストがシアの町へのルート開放クエストだとすると、【捕り手術】の存在もそうだが、【介者剣術】という選択肢が現れた事自体にも意味がある筈だ。……恐らくだが、この先では人型の敵が出現するという事じゃないのか?」
「その敵に当たるのに、【捕り手術】や【介者剣術】が必要だって事か?」
「恐らくな。ただ、ここで注意しなくちゃならんのは、ここの運営の性格だ。【捕り手術】や【介者剣術】は必要条件かもしれんが、十分条件ではないという可能性もある」
「あ?」
「どういう事だ?」
「人型の敵が魔法を使う可能性も無視できん……そういう事だ」
「そう言えば……オークが魔法を使うとか言ってたよな……」
「ホブゴブ……じゃねぇ、ホビンもそうだったな」
油断のならない展開に一同気を引き締めるが、
「とにかく、クエストは受注する方針でいいな?」
「いや、待ってくれ。もうすぐ連休だろ? 俺、旅行の計画があるんだが……スケジュールの調整は利くのか?」
「あぁ、それも確認しなくちゃな。ついでにタクマ、お前のスキル選択、すぐに決めなくても良いなら、それもクエストの終了後にしちゃどうだ?」
「……あぁ、大丈夫みたいだからそうするわ」
「じゃ、ギルドにはそう返答するが……その前に、お前らの方はどうだったんだよ?」
リーダーであるサントが、別行動を取っていた四人に問いかけた。




