第六十章 ナンの町 1.弟子入りクエスト顛末
「マックス」の自称頭脳派四人が、あるいは「ワイルドフラワー」や「使役者友の会」の面々が、【魔力操作】の効果をそれぞれに検証していた頃、「マックス」の肉体派――と言うと何やら語弊があるが、ともかく頭を使うより身体を使う方が得意な二人――は、弟子入りクエストをクリアーすべく稽古に励んでいた。殊に指導員の二刀流に苦戦していたタクマこと匠は、リアルでの蒐一の十手術指南が奏功したのか自分でも驚くほどの上達ぶりで、ギルドの指導員をすんでのところまで追い詰める一幕さえあった。
その翌日、
「参ったな。もう少し時間がかかると見ていたんだが……予想以上の上達ぶりだ」
自分から一本取ったタクマを、笑いながら祝福する剣術指導員の男の姿があった。その表情には些かの翳りも無く、タクマの上達を心から喜んでいるのが判る。ただし当のタクマの方は、嬉しいのは勿論嬉しいのだが、半ば紛れで勝ちを拾ったというのが判っているだけに、嬉しさの中に一分ほどの屈託がある。
「なに。最初は誰でもそんなもんだ。だがな、偶然でも何でも、とにかく身体がその動きを覚えたってのが大事なんだよ。そいつを積み重ねていけば、いずれ偶然は必然になる。その第一歩を踏み出せた事自体は、喜んでも自慢しても良いんだぞ?」
言われてみればそんな気もする。思い返せば子供の頃やっていた少年剣道で、綺麗に技が決まった時も、半分は紛れみたいなものだった。その後何度繰り返しても同じようには技が決まらず、しばらく腐っていた憶えがある。技を決めた時の感覚を懸命に思い出し、何とか二度目を決めた後で、ようやく自分のものにすることができた。SROでも同じと考えると、まだこれから先が長いんだろう。屈託を抱えている暇など無い。
何より、運営がクエストクリアーを認めた証拠に、タクマの目の前には半透明なウィンドウが浮かんでいる。
《弟子入りクエストをクリアーしました。プレイヤーが「剣豪」ウォーリーの弟子になりました。「剣豪の弟子」の称号を得ました》
あのおっさん、「剣豪」だったのか。道理で強い筈だ――と、思っているタクマの耳に、その剣豪からの声が聞こえる。
「約束だからな、お前が知りたがっていた捕り手術を見せてやる。一回だけしか遣らんから、しっかりと見ておけよ」
慌てて視線を上げたタクマの前で、剣豪ウォーリーが捕り手術の型を演じ始めた。チャンスは一回きり、見逃しては堪らないと、必死にその演武を見守るタクマ。やがてポーンという電子音が響き、半透明のウィンドウが出現する。
《プレイヤーが【捕り手術】を修得しました》
《これまでの行動の結果、スキルの新たな進化先が出現しました。スキルの進化は別途スキル画面から行なって下さい》
慌ててステータス画面を開いて確認すると、【介者剣術】という進化先が現れていた。何物ならんとヘルプファイルに当たってみると、【捕り手術】の他に【剣術】の保有を条件として出現する進化先で、【剣術】のオプションアーツらしい。タクマの場合は【双剣術】に付加される形になり、【介者剣術】への進化を選んでも【双剣術】が使えなくなる訳ではない。ただ、戦闘の幅が広がる反面で成長ポイントを組み討ち部分にも使われるため、純粋な【双剣術】スキルの成長は遅くなるという。また、【介者剣術】への進化を選んだ場合、【捕り手術】は消滅する。
【介者剣術】自体はあくまで戦闘用の技術であるため、捕縛制圧という面においては、純粋な【捕り手術】に及ばない。そのまま【捕り手術】として育てるか、【介者剣術】に進化させるか。プレイヤーに選択を迫るものとなっていた。
ゲームの進行を考えた場合、【捕り手術】の保有が何かのキーになるのではないかという予測はあった。その一方で、単なる【捕り手術】なら、蒐一から歌枕流の捕り手術を習う手もある。
(う~ん……こりゃ、俺の一存じゃ決められねぇな。他のメンバーと相談してから決めるとすっか)
弟子入りクエストを受けているのはタクマの他にリーダーのサントだけで、他の四人――斥候役の獣人パリス、壁役のバルト、魔術師のマギル、回復役のエルフの僧侶ウィリス――は、死霊術と召喚術の検証のために別行動を取っている。彼らと合流し、今後の方針と合わせて討議した上で、決定する方が良いだろう。
そう考えたタクマは、選択を一時保留にしてステータス画面を閉じた。
焦って決定しなくて好かったのかもしれないと、タクマたちが胸を撫で下ろすのは、この少し後の事になる。
「介」には鎧や甲羅という意味があり、「介者」とは鎧武者の事をさします。ちなみに、「魚貝類」と言った場合は魚類と貝類になりますが、「魚介類」と言った場合にはエビやカニも含まれます。




