第五十九章 トンの町 5.南のフィールド(その1)
さて、フィールドに出てマンゴスタの臭い抜きの実験をやるのはいいが、どこのフィールドでやるべきか。
「う~ん……今回は実験が目的なのだから、モンスターに煩わされない場所が良いだろうな」
「そうすると、西か南かのう……」
「確かにモンスターは少ないかもしれませんが、西は人通りが多いでしょう」
「じゃあ、消去法で南ですか?」
という事になり、一同は揃って南門へと向かった。
ちなみに、こうなったらナントも引きずり込もうじゃないかというテムジンの指嗾に従って店に行ってみたのだが、生憎店は閉まっていた。
(……そう言えば、領主に果実を納品するクエストがあるとか言ってたっけ……)
ともあれ、ナントは巻き込まれずに済んだようであった。
・・・・・・・・
一同が南のフィールドに到着し、人目の無い場所で実験に取りかかろうというところで、シュウイは懐からシルを取り出した。
「……それは、ひょっとして従魔かい?」
「えぇ。例の後付け騒ぎに関わってるんですけど、拾っちゃいました」
「……待ってくれ。そうすると、【錬金術】に加えて【従魔術】のアーツを持っているという事かい? ……いや、先程バランド氏が『弟子』と言っていた事を考えると、【調薬】もという事になるのか……?」
「えぇ、まぁ。色々とややこしい話になってまして……その辺は、いずれ機会があればお話ししますから、できたらこの件は……」
「無論、他人の個人情報をポロポロと口に出すような真似はしないとも。職業柄、その辺はきっちりしているつもりだ」
……あぁ、そう言えばテムジンさん、自衛官だったっけ……
「助かります。ちなみにこの事は、ナントさんやケインさんたちも知ってます。あと、タクマのやつも知ってますけど、あいつのパーティメンバーには内緒にしてもらってます」
「解った。何れ詳しい説明をしてもらえると助かる。特殊鋼の事でも、引き続き協力をお願いしたいからね」
「はい」
と、いう事で、テムジンの方は収まりがついたのだが……
「シュウイよ……従魔術の件は聞いておらんのじゃがな?」
弟子に隠し事をされてお冠のバランドが、ジットリとした視線を向けていた。
「あ……済みません……。え~と……余計な事で師匠のお心を煩わせてはと愚考いたしまして……」
「調子の良い事を……まぁ、良いわ。そこで心配そうにしておるお主の従魔に免じて、今回は多目に見るとしよう」
バランドの台詞にふと傍らに目を向けると、心配そうな顔付きのシルがこっちを見ていたので、大丈夫というように手を振っておく。
「教育方針を立てる上でも、弟子の技術については知っておかねばならんのじゃ。以後、妙な隠し立てをするでないぞ?」
「あ……はい、この後で改めて説明します」
「うむ」
数刻後、【従魔術】どころか【召喚術】と【死霊術】、果ては【火魔法(オーク)】まで持っているというシュウイのカミングアウトにテムジン共々頭を抱え、数刻前の迂闊な発言を呪うバランドがいたりするのだが、それはさて措き。
いざマンゴスタを切って脱臭の実験――と、シュウイが庖丁を入れたところで、
「……師匠、何で離れるんですか?」
「何、万が一という事もあるでのう」
テムジンはともかく、師匠筋のバランドまでがシュウイから離れた場所に避難している。それほどにマンゴスタの悪臭は酷いのか、と、今更になって不安を覚えるシュウイ。しかし一方で、シルの方はワクワクした目でシュウイが果実を切り分けるのを待っている。
えい、ままよとばかりにマンゴスタを切り分けたシュウイであったが、
「ぶふっ! 何、これ!?」
立ち上る異臭に顔を顰める事になった。耐え難い悪臭とまでは言わないにせよ、長く嗅いでいたい臭いではない。
顔を顰めつつ、シュウイが傍らのシルに目を遣ると……




