初戦闘
俺たちは、先輩冒険者の遺体のある場所へ向っている。
「サクタを抱えたままなので、ボクは動きにくいから、その間に遭遇した敵は、ユーマに任せていい?」
「あぁ、任せろ。」
「ところで、俺たちって、今、パーティになってるのかな?」
一旦、俺を地面に置いて、ココロが『世界の知識』で確認する。
「うん、すでに3人でパーティになってるみたい。」
こうしてココロが、俺を抱えながら『世界の知識』の力で先導し、森の奥へ奥へと、進んでいった。
・ ・ ・ ・ ・
やがて3人の先輩冒険者の遺体が見えるところまでやって来た。
いずれも、うつぶせで地面に倒れていた。
その周りには、大きな獣の足跡のようなものが、たくさん残っている。
「先輩たちをやった獣が、まだ、近くにいそうだね。手短に用事を終えよう。」
「サクタ、一旦ここに置くね。」
ココロが俺を先輩たちの近くに置き、ユーマと共に、遺体の確認を始めた。
さっきまで感じていたココロの手の柔らかい感触がなくなって、少し残念。
死体は、まだ生きているのでは?と感じるほど、ある程度比較的原型を保っていたが、
血の気はなく、硬直していて、ピクリとも動かなかった。
出血部分は、血が固まっているが、腐乱してる感じはない。
金属鎧は、ボコボコに凹んでいた、何か強い力に押しつぶされたのだろうか。
鎧には、歯形のような跡もあった。
鎧を貫通していなかったとはいえ、金属鎧に歯形を残すとは、相当強い力で噛まれたのだろう。
ココロの『世界の知識』では、死んでから、半日も経過していないらしい。
脈を確認したユーマも間違いなく死んでいると言っていた。
というか、死んでる人に良く触れる事が出来るな…と感心した。俺には出来そうにない。
内臓が飛び出てるようなグロイものを見なくて済んだのは、良かったが…。
遺体には首から、軍隊の認識票のように、2枚セットになった板がかけられていた。
これが、ここのギルドカード(兼冒険者認識票)らしい。
基本的に文字情報で構成されているのだが、ここでは、識字率が低い為、
色が銀色で両端に八角形の刻印があり、八角形の中にCという文字が刻印されている。
Cという文字が読めない人の事を考慮して、八角形の図形が描かれているらしい。
この図形は、後述のこの世界の貨幣と同じで、
三角より四角が上…という感じで、角が多いほど高い事を示している。
三角形、四角形、五角形、六角形、八角形‥‥の順になっていて、それより上は、円形になるらしい。
七角形と、九角形以上がないのは、描きにくい為と、それより上のランクなら識字率も高くなる事による。
板の中央には、名前、年齢、血液型などが文字で刻印されている。
裏面には、ギルド印が刻印されており、これで、所属ギルドがわかる仕組みだ。
ギルド印も、識字率を考慮し、オオカミの絵柄に「ウルク」という文字が書かれていた。
この絵柄は、都市によって異なり、隣の都市である「タマナ」ではクマの絵柄になっている。
それにしても、この世界の文字は、初めて見るハズだが、なぜか不思議と読めてしまう。
今になって「翻訳」という能力をお願いし忘れた事に気づいたが、
異世界転生ものの「あるある」で、この世界の言語を覚えた状態で転生してくれたのだろう。
至れり尽くせりで、ありがたい。
Cと書かれているから、Cランクの冒険者なのだと思う。
ギルドカードに記載された情報によると、ティム、ケント、ローグの3人パーティで、年齢は、俺たちと同じだった。
何故か3人共、盾を所持している。前衛3人とは、バランス悪いパーティだな…と感じた。
一番体が大きいティムが、モーニングスター(鉄の棒の先にとげとげの鉄球がある武器)使いで、
ケントは、少し大きめの剣を使い、
ローグは、華美な装飾が施されていた剣を使っていた。
とても、装飾が凝っていたので、この人だけ「偉い人」とかだったのかな?。
まずは、目的のお金(銀貨30枚分:30万円相当)の入った袋を回収した。
袋の中には、八角形の銀貨28枚と、六角形の白銅貨19枚と、五角形の黄銅貨10枚が入っていた。
ココロの『世界の知識』によると、この国の通貨は「ユルド」という単位で、1ユルドは1円相当らしい。
同じような感覚で使えそうだ。
だけど「ウルド外町」では、数字が読めない人が、とても多いらしい。
だから「30ユルド」を「◇◇◇」のように貨幣のカタチを必要な枚数分描いて表現し、
口頭では「赤銅貨3枚」と伝えて、売り買いをしているそうだ。
子供相手だ「四角いのが3枚」と言ったりするくらいだ。
・鉄 貨= 1円相当=暗青色:三角形
・赤銅貨= 十円相当=銅 色:四角形
・黄銅貨= 百円相当=黄金色:五角形
・白銅貨= 千円相当=白銀色:六角形
・銀 貨=1万円相当=銀 色:八角形
・金 貨=十万円相当=金 色:円形
・魔銀貨= 百万円相当=銀色で自発光:円形
・魔金貨=1千万円相当=虹色で自発光:円形
…という分類で、紙幣は存在しない。
隣国の「マジカ帝国」の貨幣の単位は「マジカ」と呼ぶが、
「ユグドラシル王国」の貨幣と同じ素材と、形で作られていて、
為替レートというものはなく、同じレートで扱われているとの事。
「ユグドラシル王国」の国境に位置する「ウルク外町」では、
「銀貨3枚」なら「ユグドラシル銀貨」と「マジカ銀貨」が
混在していても、銀貨が3枚あればOKという感じで…。
ちなみに高額貨幣(魔銀貨や魔金貨)は、王都以外では、ほぼ出回っていない。
仮に入手しても、王都でしか両替出来ない(つまり使えない)ので、
基本的に、金貨以下の貨幣で取引されていると思っていいそうだ。
「サクタ。『無限収納』の能力で運びたいんだけど、出来そう?」
そう言われて、収納しようと考えただけで、体の前に、なんだか深い穴のようなものが登場した。
それにしても、初めて使うのが遺体の収納とは…。ちょっと悲しい。
ココロが、その穴を通じて、自分の小物を出し入れして試している。
「一度、穴を閉じて、もう1度、開いてもらっていい?」
その通りにしてみた。
ココロは、最初に入れたものが、閉じた後、もう1度、取り出せる事を確認すると…
「うん、大丈夫そうだね。」
と言うと、遺体を、ユーマに手伝ってもらいながら、俺の『無限収納』の中に入れていった。
その場を去ろうとした際、
先輩冒険者を亡き者にしたと思われるバカでかいイノシシのような獣に、俺たちも遭遇する羽目になった。
背丈も3mくらいあり、頭に大きな角が5本生えていて、紫色の目が4つついている。気持ち悪いヤツだ。
完全に、こちらを敵視していて、逃がしてくれそうにない。
すると、俺の鎧が、自動的に動いて、剣と盾を構えた。
「おっ?」思わず、俺は、そんな声を出す。
構えただけで、俺自身の意思では、動かす事が出来ないみたいだが…。
それと同時に、俺の『ア-ティファクト』から、いろんなものが出だした。
・鎧自体が、より強く黄色く発光
・レーザーポインタみたいな赤い光が相手に照射。光は点滅。
・ジィーという音
・ミントのような香り
ココロたち2人は水と、火で、離れた位置から攻撃をはじめた。
でも、どんなに攻撃しても、イノシシは、迷いなく俺の方だけに向かって来た。
イノシシは何度も突進してきた。
よく見ると、俺から出ているレーザーポインタの光は、イノシシの目の数と同じ4本分出ていて、
いずれもイノシシの目の中心をめがけて照射されていた。
そのせいか、俺の事が、あまり、よく見えていないようで、
俺の中心というより、ビミョウに左右にずれて半身ぶつかるって感じだった。
「ぐぁっ…」「がほっ…」「ぐへ…」
中心に当たっていないとはいえ、ぶつかるたびに、すごく痛い。
俺は何度も情けない声を出してしまった。
ものすごい力でぶつかって来るのだけど、後ろに見えない壁があるかのように、
俺は、吹き飛ばされる事なく、その場で維持する事が出来ていた。
ぶつかるたびに、イノシシと、見えない壁との間に挟まれて、押しつぶされるような感覚を感じた。
骨が何本も折れて、内臓に突き刺さったり、内臓がつぶされたて、中のものが飛び出しそうな感覚など、
とんでもない「激痛」を感じるのだけど、あくまでも、そう「感じる」だけで、
実際に、骨が折れたり、内臓がつぶれたりしていないようだ。
そういう事が何度も続いた末、
ココロたちの攻撃がヒットしつづけ、イノシシは倒れた。
敵が倒れると、俺の体が自動的に動いて、盾と剣をしまった。




