第96話 君と同じにはならない
小さな部屋だった。
机と椅子。
窓の外には、無数の世界。
崩れた世界。
平和だが色のない世界。
途中で終わった世界。
そして、今の世界。
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少年は窓辺に立っていた。
俺と同じ顔。
だが、目だけが違う。
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何も期待していない目。
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「……君が始まり?」
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「そう」
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「最初に“選べる世界”を作った」
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まるで工作の説明みたいに言う。
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「人間って面白いんだよ」
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「迷って、失敗して、泣いて、また立つ」
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「だから見てみたかった」
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少年は振り向く。
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「でも、何度見ても壊れた」
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「争って、奪って、諦めて」
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「だから修正した」
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「何度も」
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拳を握る。
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「そのたびに、人生ごと巻き戻して?」
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「うん」
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「必要だったから」
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即答。
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そこに罪悪感はない。
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俺は息を吐く。
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「……最低だな」
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少年は少しだけ笑った。
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「君も僕だよ」
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「同じ条件なら、同じ結論に至る」
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「だから今ここに呼んだ」
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部屋の床に線が走る。
円環陣。
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「証明して」
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「君が僕と違うって」
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同時に、世界が反転した。
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気づけば、駅のホームに立っていた。
夕焼け。
誰もいない。
第90話で見た景色。
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「精神層戦闘」
少年の声が響く。
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「君の選択で、景色は変わる」
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線路の向こうから人影が現れる。
アリア。
泣いている。
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「ユウト……助けて」
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胸が跳ねる。
駆け出しかけて、止まる。
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違う。
これは本物じゃない。
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「迷うね」
少年が隣に立っていた。
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「本物かどうかなんて、確認してる間に失う」
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「だから最適解は、先に全部管理することだ」
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アリアの幻影が崩れ、消える。
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怒りが込み上げる。
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「人の気持ちまで素材にすんな」
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「素材?」
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少年は首を傾げる。
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「大事だから使うんだよ」
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次の瞬間、景色が変わる。
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燃える街。
瓦礫の下敷きになったリゼ。
血を流すカイ。
崩れる空。
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「この未来もあった」
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「君たちが一歩遅れた世界」
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喉が詰まる。
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少年は淡々と続ける。
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「だから僕は減らした」
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「不幸を」
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「選択を」
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俺は叫ぶ。
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「違う!」
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景色が揺れる。
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「不幸を消したんじゃない」
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「生きることごと削ったんだろ!」
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燃える街が砕け散る。
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今度は学校の教室。
平和な日常。
だが、全員が無表情。
同じタイミングで笑い、同じタイミングでノートを取る。
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「こっちの方が幸せな人も多いよ」
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少年が言う。
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「争いはない」
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「失敗もない」
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「傷つく恋も、叶わない夢もない」
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俺は教室を見回す。
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アリアがいる。
だが俺を見ない。
そもそも興味すらない顔。
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リゼも笑わない。
カイもただ座っている。
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胸が冷える。
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「……空っぽだ」
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「安定してる」
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「死んでるのと同じだ!」
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その叫びで教室が崩れる。
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白い空間に戻る。
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少年が初めて、少しだけ苛立った顔をした。
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「じゃあどうするの」
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「放っておけば壊れる」
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「人は間違える」
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「君だって失った」
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記憶。
痛み。
何度もの危機。
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確かにそうだ。
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俺は静かに答える。
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「うん。間違える」
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「失う」
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「たぶんまた失敗する」
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一歩前へ出る。
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「でも、そのたびに選び直せる」
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少年が止まる。
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俺は続ける。
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「君は失敗した未来しか見てない」
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「俺は、そのあと誰かが手を差し出す未来を知ってる」
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アリアの手。
リゼの笑い声。
カイの背中。
何度忘れても、また始められた時間。
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「一人で完璧にしようとした時点で、君はもう間違えてる」
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沈黙。
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少年の輪郭が揺れる。
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「……僕は、君だ」
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「君もいつか諦める」
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俺は笑った。
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「かもしれない」
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「その時は、誰かに止めてもらう」
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その瞬間。
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部屋の扉が開く。
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アリアが入ってきた。
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「遅い」
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リゼが後ろで手を振る。
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「精神世界まで一人で盛り上がってんじゃん」
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カイも腕を組む。
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「理屈で負けそうなら数で行く」
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少年が目を見開く。
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「……侵入?」
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白い観測者の声が響く。
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「共同接続成功」
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「単独試験は無効化した」
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俺は吹き出した。
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「残念だったな」
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アリアが俺の横に立つ。
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「一人で証明しなくていい」
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その言葉だけで、勝てる気がした。
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少年は皆を見る。
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初めて、寂しそうな顔をした。
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「……僕には、いなかった」
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静寂。
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俺はゆっくり言う。
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「じゃあ、今からでも遅くない」
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手を差し出す。
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「終わらせよう」
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「繰り返すの」
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少年の目が揺れる。
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だがその瞬間、部屋の外で警報が鳴る。
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上位存在の声。
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「管理権限奪取を検知」
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「緊急初期化を開始する」
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少年が顔を上げる。
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「……まずい」
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俺も振り向く。
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塔全体が崩れ始めていた。
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まだ終わっていない。
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本当の決着は、これからだ。




