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『俺だけドロップ率∞のバグスキル持ちだった ~底辺探索者のダンジョン配信が、いつの間にか世界最強チャンネルになっていた~』  作者: やまご


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第90話 思い出してはいけない記憶

朝だった。


昨日の戦闘の余韻が、まだ体に残っている。


黒い観測者。

アリアを狙った襲撃。

そして――感情と一緒に戻った、断片の記憶。



白い廊下。

泣きそうな彼女。

守りたいと思った自分。



「……妙な感じだ」


洗面所の鏡に映る自分へ呟く。


顔は同じ。

でも中身だけ、少しずつ組み替わっていく感覚がある。



リビングへ行くと、リゼがソファで菓子を食べていた。



「お、悩める主人公」



「朝から雑ですね」



カイは端末から目を離さない。



「昨夜の出力上昇データを解析中だ」



「人のプライバシー」



「ない」



即答だった。



アリアはキッチンでコーヒーを淹れている。


自然な背中。

それを見るだけで落ち着く。



だが、同時に。



“思い出せない何か”が胸を刺した。




そのとき。



空気が整う。



白い観測者が現れた。



「緊急警告」



全員の空気が変わる。



「昨夜の記憶再接続により、封鎖領域への接触を確認」



俺は眉をひそめる。



「……封鎖領域?」



「お前の記憶の一部は、単なる欠損ではない」



沈黙。



「意図的に封印されている」




リゼが菓子を落とした。



「は?」



カイが初めて端末から顔を上げる。



「誰がやった」



白い観測者は、俺を見る。



「お前自身だ」




空気が止まる。



俺が……自分で?




「理由は不明」



「だが昨夜、感情刺激により封鎖層へ亀裂が入った」



「このまま再接続が進めば、“隠した真実”が浮上する」




アリアが低く言う。



「危険なの?」



「高確率で」



「なぜ」



少しの沈黙。



「お前が、自分から消した記憶だからだ」




重い言葉だった。



自分で消すほどの何か。



それを思い出すことは、救いなのか。

それとも。




俺は静かに聞く。



「……見られますか」



白い観測者が答える。



「封鎖領域へ直接潜行すれば可能」



リゼが即座に反対する。



「却下! 記憶の中ダイブとか事故るやつ!」



カイも珍しく同意した。



「リスクが高い」



アリアは黙って俺を見ている。



俺は少し考えた。



怖い。



でも。



知らないままで、この先進める気もしない。



「……行きます」



アリアが即座に言う。



「一人では行かせない」




俺は笑う。



「言うと思いました」




白い観測者が告げる。



「二名接続を許可」



「第三者同行により精神崩壊率を低下可能」



リゼが突っ込む。



「その情報もっと早く出しなよ!」




数十分後。



屋上。


簡易接続陣が展開される。


観測者の線と、俺の干渉を重ねる装置。



アリアが隣に立つ。



「怖い?」



正直に答える。



「かなり」



「私も」



珍しい答えだった。



俺は少し驚く。



「でも」



彼女は手を差し出す。



「一緒なら行ける」



胸が熱くなる。



「……はい」



手を握る。



接続開始。



世界が白く溶けた。




次に立っていたのは、見知らぬ駅のホームだった。


夕焼け。


誰もいない。


電車の音だけが遠い。



「ここ……」



「あなたの記憶」


アリアが小さく言う。



ホームの向こうに、人影がいる。



若い男。


後ろ姿。



俺だ。



今より少し幼い。

だが間違いなく、自分。



その向かいに立つのは――



“白い誰か”。



輪郭が強すぎて見えない。


観測者に近い。

だが、今までの誰とも違う。



若い俺が叫んでいる。



「……もうやめろ!」



声が震える。


怒りと、絶望と。



白い誰かが答える。



「選択は苦痛だ」



「ならば、私が終わらせる」



胸がざわつく。



若い俺が一歩前へ出る。



「違う」



「苦しくても、自分で決めたいんだよ!」



その言葉。



今の俺と、同じだった。



白い誰かが手を伸ばす。



世界が歪む。



駅が崩れ、未来の線が一本に収束していく。



若い俺が叫ぶ。



「だったら……!」



こちらを向く。



俺と、目が合った。



「お前に託す!」



次の瞬間。



激しいノイズ。



頭痛。



景色が砕ける。



アリアが俺を抱き寄せた。



「戻る!」



白い世界へ引き戻される。




屋上。


現実。



膝から崩れ落ちる。



「……はぁ……!」



息が荒い。


心臓が痛い。



リゼが駆け寄る。



「何見たの!?」



俺は震える声で答える。



「……俺、前にも戦ってた」



「観測者みたいな何かと」



カイが目を細める。



「前にも、か」



アリアが俺の肩を掴む。



「最後の言葉は?」



俺は空を見る。



まだ、耳に残っている。



「……託す、って」



白い観測者が静かに告げる。



「仮説更新」



「お前は“初めてのユウト”ではない」



沈黙。



「継承個体の可能性が高い」




リゼが固まる。



「転生? ループ? クローン?」



「未確定」




俺は息を吐く。



記憶喪失どころじゃない。



自分が、自分一人じゃないかもしれない。



でも。



なぜか怖さより先に、確信があった。



“だから俺は、最初からこの戦い方を知っていた”。



アリアが手を握る。



「今のあなたは、あなたでしょ」



その一言で、呼吸が戻る。



「……はい」



たとえ過去が何人分あっても。



今ここにいる俺は、一人だ。



第4部。


記憶の先に、“起源”が待っている。



第90話 完

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