表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『俺だけドロップ率∞のバグスキル持ちだった ~底辺探索者のダンジョン配信が、いつの間にか世界最強チャンネルになっていた~』  作者: やまご


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/99

第86話 守るために、切り捨てるもの

朝だった。


昨夜の戦闘の痕跡は、街からほとんど消えていた。

裂けた空間も、崩れた道路も、観測者たちの干渉で修復されている。


人々は何も知らずに出勤し、学校へ向かう。


平和だった。



だが、俺の中は静かじゃなかった。



「……眠れてないでしょ」


アリアがコーヒーを置きながら言う。



「少しだけ」



嘘だった。


ほとんど眠れていない。



昨夜、“閉鎖された可能性”に触れた感覚が残っている。


消された未来。

助からなかった命。

選ばれなかった道。



見えてしまった。



アリアが隣に座る。



「また背負い込んでる」



俺は苦笑する。



「そう見えます?」



「ええ」



短く、確信を持って。




そのとき。



空気が整う。



白い観測者が現れた。



「緊急報告」



カイとリゼも同時に顔を上げる。



「早朝から来るねぇ」



観測者は無視して続けた。



「強硬派が大規模儀式を開始」



「都市一帯の“選択肢圧縮”を確認」



沈黙。



俺が聞き返す。



「……何をする気ですか」



「この街から“不確定要素”を除去する」



意味は、すぐ分かった。



偶然。

迷い。

失敗。

挑戦。

寄り道。



そういう“揺らぎ”を消す。



つまり。



「……人間じゃなくなる」


アリアが低く言う。



観測者は否定しない。




カイが端末を叩く。



「すでに兆候が出てる。交通が異常に円滑、SNS投稿激減、喧嘩ゼロ」



リゼが顔をしかめる。



「気持ち悪……」




俺は空を見る。



線が減っている。



未来の枝分かれが、明らかに少ない。



街が“一本道”になり始めていた。



「止めます」



即答だった。



だが、白い観測者は首を振る。



「単純破壊は不可」



「圧縮中枢を壊せば、失われた選択肢ごと消滅する」



つまり。



強引に止めれば、二度と戻らない未来が出る。



「……は?」


リゼが固まる。



「じゃあどうしろっての」




観測者は俺を見る。



「お前なら可能性がある」




嫌な予感しかしない。




「圧縮された選択肢を、一つずつ再接続する」




カイが低く言う。



「気が遠くなるな」




「副作用あり」



観測者が続ける。



「大量接続時、干渉個体の記憶領域に過負荷」




沈黙。




俺は笑ってしまった。



「つまり?」




「お前自身の記憶が欠損する可能性が高い」




空気が止まる。



アリアが一歩前に出た。



「却下」



即答。



観測者が返す。



「代替案なし」




「却下よ」



声が強い。



珍しく、怒っていた。




俺は何も言えない。



記憶。



また、か。



やっと少しずつ戻ってきたもの。

アリアとの時間。

皆との積み重ね。



それを失うかもしれない。




リゼが目を逸らす。



「……きつ」




カイも黙っている。




誰も、“やれ”とは言えない。




俺は空を見る。



未来の線が減っていく。



街全体が、静かに決められていく。



迷わない人々。

失敗しない日常。

だが、笑いも薄い。



生きているのに、薄い。




アリアが俺の手首を掴む。



「考えないで」




「でも」




「あなたがやる必要ない」




その言葉。



痛いほど優しい。




俺はゆっくり聞く。



「……もし、放っておいたら?」




アリアは答えない。



代わりに、目を逸らした。



それが答えだった。




俺は小さく息を吐く。




「アリア」




「嫌」



即答。




思わず笑う。




「まだ何も言ってません」




「分かるもの」




少しだけ、沈黙。




俺は手を握り返した。




「……全部は失いませんよ」




「保証あるの?」




「ないです」




「最悪」




リゼが吹き出した。



空気が少しだけ戻る。




カイが言う。



「選ぶのはお前だ」




「ただし、一人で決めるな」




その言葉。



第81話の夜と同じだ。




俺は頷く。




「……なら」




皆を見る。




「手伝ってください」




アリアが深く息を吐いた。




「最初からそのつもり」




リゼが拳を鳴らす。



「記憶なくなっても、また教えればいいし」




カイが短く言う。



「前提にするな」




白い観測者が一歩下がる。



「作戦支援を開始する」




俺は空を見る。



減っていく未来の枝。



守るために、何かを失うかもしれない。



それでも。



選ぶのは、今だ。




アリアが小さく言う。



「……戻ってきて」




俺は笑った。



「努力します」




その手を、強く握る。



第4部。



“代償ある選択”が始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ