第77話(第4部・第1話) 観測する側に立つということ
世界は、静かだった。
あの戦いから数日。
街は何事もなかったかのように動き続けている。
だが――
「……変わりましたね」
俺は空を見上げながら呟いた。
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見える。
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前は“なんとなく”だった。
今は違う。
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世界の“構造”。
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無数の線が、空間の奥に重なっているのが分かる。
現実を支える、見えない繋がり。
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「……見えてるのね」
隣でアリアが言う。
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「はい」
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俺は頷く。
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「前よりはっきりと」
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あの戦いで。
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“触れすぎた”。
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存在の外側に。
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カイが腕を組む。
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「戻りきってないな」
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リゼがため息をつく。
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「というか、戻る気ないでしょそれ」
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否定できない。
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「……まあ」
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俺は苦笑する。
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「こっちの方が分かりやすいんで」
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そのとき。
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空気が揺れる。
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ほんのわずかに。
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「……来る」
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アリアが言う。
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だが。
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前とは違う。
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敵意じゃない。
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“確認”。
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空の奥。
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見えない場所。
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そこに。
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“視線”がある。
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「……観測」
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声が響く。
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だが。
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以前の“それ”とは違う。
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複数。
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だが。
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距離がある。
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俺は目を細める。
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「……見てるだけですね」
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その瞬間。
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声が返ってくる。
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「……観測対象、安定確認」
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「干渉反応、変質」
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「分類変更」
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空気が静かに張り詰める。
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「“観測される側”から」
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「“観測する側”へ」
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その言葉。
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意味は、分かる。
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俺は息を吐く。
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「……昇格、ってやつですか」
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沈黙。
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だが。
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否定はない。
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リゼが小さく笑う。
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「出世したねぇ」
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カイが一言。
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「笑えん」
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アリアが俺を見る。
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「……どうするの?」
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その問い。
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重い。
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今までとは違う。
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“戦うかどうか”じゃない。
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“どう在るか”。
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俺は少しだけ考える。
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空を見る。
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無数の線。
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世界の繋がり。
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それを。
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“触れる”。
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「……俺は」
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言葉を選ぶ。
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「勝手に決めるのは嫌ですね」
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沈黙。
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「……理由」
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声が返る。
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俺は答える。
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「選ぶのは、本人でいい」
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その瞬間。
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空気が変わる。
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観測の圧が、わずかに揺らぐ。
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「……非効率」
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「だが」
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「興味深い」
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その言葉。
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今までと違う。
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完全な敵意じゃない。
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“観察”。
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アリアが小さく言う。
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「……まだ終わってないわね」
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俺は頷く。
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「はい」
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手を握る。
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自然に。
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「……一緒に」
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「ええ」
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その瞬間。
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新しい“感覚”が生まれる。
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ただ触れるんじゃない。
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“選べる”。
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世界の繋がりを。
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遠く。
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別の場所。
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誰かが戦っている。
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小さなダンジョン。
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苦戦している探索者。
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俺は、思わず手を伸ばす。
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「……待って」
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アリアの声。
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だが。
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もう触れている。
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「……大丈夫」
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俺は言う。
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「少しだけ」
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存在干渉。
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だが。
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今度は違う。
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“介入”。
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ほんの少しだけ。
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流れを変える。
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その瞬間。
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遠くの戦いが、変わる。
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探索者が、勝つ。
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俺は手を下ろす。
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「……今の」
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リゼが呟く。
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「やったよね?」
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カイが静かに言う。
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「……観測側の力だな」
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俺は少しだけ考える。
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「……便利ですね」
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アリアがすぐに言う。
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「使い方、間違えないで」
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その言葉。
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重い。
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俺は頷く。
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「はい」
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空を見る。
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観測者たち。
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まだ、見ている。
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だが。
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もう一方的じゃない。
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俺も。
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見ている。
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第4部。
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“創造側”編、開始。
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第77話 完




