第76話(最終話・第3部完) それでも、選び続ける
触れていた。
確かに、“それ”の中心に。
だが、まだ足りない。
崩れかけた輪郭の奥に、最後の“確定”が残っている。
世界を決めるための、最後の基準。
「……あと一歩」
俺は呟く。
息が浅い。体の輪郭も、少しずつ曖昧になっている。
ここで押し切れなければ――次はない。
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「……理解」
“それ”の声が響く。
今までとは違う。
そこには、明確な“認識”があった。
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「お前は、“決まらない存在”」
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核心。
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俺は、笑う。
「……そうみたいですね」
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“それ”は続ける。
「ゆえに、お前は不安定だ」
「ゆえに、お前は完全ではない」
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正しい。
否定できない。
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だが。
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「だから、いいんですよ」
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俺は答える。
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「決まってないから、選べる」
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その瞬間。
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空間が静かに揺れる。
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“それ”が、初めて言葉を止めた。
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理解できないものを前にしたように。
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「……非合理」
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「非効率」
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「非最適」
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俺は一歩踏み出す。
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足場はない。
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だが。
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「ここに立つ」
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宣言と同時に、世界が従う。
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俺は、存在している。
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理由は、自分で決める。
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アリアが隣に立つ。
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手は、まだ繋がっている。
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「……やるわよ」
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短く。
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だが、揺れない。
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「はい」
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その瞬間。
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すべてが重なる。
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記憶。
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感覚。
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意志。
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完全じゃない。
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だが。
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十分だ。
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“それ”が動く。
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最後の力。
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「……最終確定」
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世界が一点に収束する。
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すべてが、終わる未来へ。
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だが。
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「終わらない」
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俺とアリア。
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同時に踏み込む。
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「まだ決めてない」
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「私たちはここにいる」
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言葉が重なる。
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その瞬間。
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収束が止まる。
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完全に。
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「……不整合」
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“それ”の声が、初めて崩れる。
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俺は手を伸ばす。
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“中心”へ。
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今度は、迷いがない。
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「終わりです」
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その瞬間。
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アリアが動く。
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ザンッ!!!!!!!!!!!!!!
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完全な一撃。
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今までで一番、深く。
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“それ”の核を断ち切る。
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沈黙。
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そして。
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崩れる。
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光になって。
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静かに。
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消えていく。
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「……観測、終了」
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最後の声。
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「……選択を、確認」
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完全に消滅。
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静寂。
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世界が戻る。
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夜の街。
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風。
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音。
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すべて。
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元通り。
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俺は息を吐く。
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「……終わった」
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その瞬間。
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力が抜ける。
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膝が崩れる。
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だが――
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支えられる。
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アリア。
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「……ほんとに」
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小さく。
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「無茶する」
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俺は苦笑する。
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「結果オーライです」
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その瞬間。
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アリアが少しだけ睨む。
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「軽い」
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だが。
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そのまま。
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離れない。
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しばらく。
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沈黙。
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風が吹く。
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そのとき。
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アリアが小さく言う。
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「……ね」
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「はい」
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「覚えてる?」
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少しだけ。
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期待。
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俺は考える。
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そして。
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首を振る。
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「……ごめんなさい」
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沈黙。
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だが。
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アリアは笑う。
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「……いい」
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小さく。
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「またやればいい」
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そして。
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一歩近づく。
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距離。
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ゼロ。
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「何回でも」
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真っ直ぐ。
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「好きって言う」
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俺は一瞬止まる。
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だが。
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すぐに笑う。
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「……じゃあ俺も」
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「何回でも好きになります」
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その瞬間。
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アリアがほんの少しだけ目を閉じる。
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そして。
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触れる。
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今度は。
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少しだけ長く。
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離れない。
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遠くで。
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リゼが呟く。
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「……それ最強だね」
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カイが一言。
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「崩れない」
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空は静か。
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世界は続く。
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記憶は。
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戻らないかもしれない。
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だが。
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それでも。
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何度でも。
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選び続ければいい。
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手を繋いだまま。
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歩き出す。
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それが。
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俺たちの答えだ。
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完(第3部 完結)




