第66話(第3部・第1話) 世界の外側と、観測される存在
「……また増えてるな」
リゼが空を見上げて呟く。
夜。
街の上空。
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黒い裂け目――ダンジョン。
その数が。
明らかに増えていた。
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「一つじゃない」
カイが言う。
「同時発生だ」
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以前とは違う。
単発じゃない。
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“現象”として広がっている。
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屋上。
俺はその光景を見上げる。
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「……すごいですね」
正直な感想。
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だが――
胸の奥がざわつく。
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懐かしいような。
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嫌な予感のような。
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「……来たわね」
アリアが隣で呟く。
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距離はいつも通り。
ゼロ。
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手も。
自然に繋がっている。
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「知ってる感じですか?」
俺が聞く。
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アリアは少しだけ考える。
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「……似てる」
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「前にあった“何か”に」
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曖昧な答え。
だが。
十分だった。
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そのとき。
スマホが鳴る。
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緊急通知。
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【全探索者へ】
【同時多発型ダンジョン災害】
【Sランク以上多数】
【即時対応要請】
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リゼが笑う。
「世界規模だね、これ」
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カイが一言。
「始まったな」
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俺は空を見る。
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「……行きます?」
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アリアが即答する。
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「ええ」
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そして。
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手を強く握る。
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「……一緒に」
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俺は頷く。
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「はい」
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その瞬間。
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遠くの裂け目の一つが――
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“開いた”。
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中から。
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“何か”が降りてくる。
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人型。
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だが――
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今までの敵とは違う。
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“輪郭が安定している”。
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存在が。
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“確立している”。
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「……見つけた」
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声。
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直接。
頭の中に。
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「観測対象:ユウト・カグラ」
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その言葉。
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なぜか。
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“懐かしい”。
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「……誰だ?」
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俺が呟く。
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“それ”は答える。
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「我々は“観測者”」
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「外側のさらに外」
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「世界を記録し、修正する存在」
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空気が変わる。
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リゼが顔をしかめる。
「……また厄介なの来たね」
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カイが言う。
「今までとは別格だ」
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“観測者”が続ける。
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「前回の“排除対象”」
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「消失確認済み」
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「だが――」
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一歩踏み出す。
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「お前は残った」
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俺を見る。
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「……なぜだ」
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沈黙。
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俺は少しだけ考える。
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そして。
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「さあ」
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正直に。
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「でも」
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一歩踏み出す。
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「残ってるなら、それでいいです」
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その瞬間。
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アリアが少しだけこちらを見る。
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「……ほんとに」
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小さく。
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「変わらない」
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“観測者”が言う。
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「……理解不能」
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「だが」
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圧が変わる。
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「再検証する」
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その瞬間――
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空間が“固定”される。
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動けない。
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時間が止まったような感覚。
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だが――
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「……見える」
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俺は呟く。
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完全じゃない。
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だが。
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ズレが分かる。
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“止まっていない部分”。
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「そこだ」
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俺が一歩踏み出す。
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バキッ。
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空間にヒビが入る。
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「……!」
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“観測者”が初めて反応する。
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「干渉確認」
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アリアが動く。
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ザンッ!!
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一撃。
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だが――
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“観測者”は微動だにしない。
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「……低出力」
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そのまま。
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こちらを見る。
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「再評価」
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「危険度:上昇」
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その瞬間。
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別の裂け目が開く。
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さらに。
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“観測者”。
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一体じゃない。
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複数。
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リゼが笑う。
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「……これ、完全に」
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カイが続ける。
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「戦争だな」
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俺は息を吐く。
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「……いいですね」
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隣を見る。
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アリア。
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目が合う。
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「……やるわよ」
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即答。
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俺は頷く。
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「はい」
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手を握る。
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強く。
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その瞬間。
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また一瞬だけ。
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記憶の断片。
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世界を繋いでいる自分。
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壊れたものを戻す力。
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「……ああ」
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少しずつ。
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“思い出している”。
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だが――
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まだ足りない。
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だから。
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今は。
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「……もう一回、やりますか」
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その言葉に。
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アリアがほんの少しだけ笑う。
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「ええ」
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第3部。
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本格開幕。
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第66話 完




