第64話 思い出すのではなく、もう一度選ぶ
「……来る」
アリアの声。
静かだが、確信があった。
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ダンジョン最深部。
空間が崩れたまま固定されている。
歪んだ世界。
まるで現実と“外側”が重なった場所。
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俺は息を整える。
「……さっきのやつとは、違いますね」
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「ええ」
アリアが短く答える。
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その瞬間――
“世界が止まった”。
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音も。
風も。
時間も。
すべて。
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そして。
そこに“それ”はいた。
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形はある。
人型。
だが――
中身が“空白”。
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存在しているのに。
存在していない。
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「……最終個体、確認」
声が響く。
直接、頭の中に。
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「対象:ユウト・カグラ」
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「回収を開始する」
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その瞬間――
視界が“切り替わる”。
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自分が消える感覚。
世界から“外される”。
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「……っ!」
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だが――
消えない。
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「……離さない」
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ぐいっ。
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アリアが引き戻す。
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ドン。
完全密着。
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「……ここにいて」
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低い声。
だが。
必死。
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俺は息を吐く。
「……います」
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その瞬間。
視界が安定する。
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“それ”が初めて反応する。
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「……干渉、確認」
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「対象2:アリア」
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次の瞬間。
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空間が“剥がされる”。
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アリアが消える。
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「……!」
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「分離成功」
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“それ”の声。
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俺は叫ぶ。
「……返せ!」
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だが。
届かない。
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“外側”に隔離されている。
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そのとき。
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頭の奥で。
何かが“弾けた”。
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――一緒に戦っている
――何度も助けられている
――笑っている
――怒っている
――触れている
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「……っ!」
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断片。
記憶。
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だが。
完全じゃない。
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それでも――
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“分かる”。
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俺は手を伸ばす。
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「……繋ぐ」
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存在干渉。
発動。
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だが。
今回は違う。
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“探す”。
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アリアの存在を。
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世界の外側から。
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「……いた」
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確信。
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その瞬間。
空間に“裂け目”を作る。
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「戻れ!!」
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引き戻す。
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ドンッ!!
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衝撃。
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そして――
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「……っ!」
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アリアが戻る。
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そのまま。
崩れるように寄ってくる。
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ドン。
完全密着。
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「……バカ」
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小さく。
だが。
震えている。
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「……勝手に行かないで」
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俺は言う。
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「……行ってませんよ」
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その瞬間。
アリアが少しだけ力を込める。
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「……一緒にいるって言ったでしょ」
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“それ”が言う。
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「……干渉能力、変質」
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「危険度:更新」
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圧が上がる。
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今までの比じゃない。
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「……消去」
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全方位。
同時。
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だが――
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「見える」
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完全に。
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俺は踏み込む。
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アリアと同時に。
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「行くわよ!」
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「はい!」
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手を握る。
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完全に。
重なる。
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その瞬間。
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視界が変わる。
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世界の構造。
線。
繋がり。
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すべてが見える。
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「……ここだ」
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“それ”の核。
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存在の中心。
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俺は言う。
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「アリア」
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アリアが答える。
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「分かってる」
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二人。
同時に踏み込む。
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“それ”が反応する。
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「……排除」
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だが――
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遅い。
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俺は手を伸ばす。
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触れない。
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だが。
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“重ねる”。
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その瞬間。
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世界が“固定される”。
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「終わりです」
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アリア。
最大速度。
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ザンッ!!!!!!!!!!
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完全直撃。
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“それ”が崩れる。
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だが――
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消えない。
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まだ。
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「……まだか」
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俺が呟く。
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“それ”が言う。
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「……不完全」
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「お前はまだ“思い出していない”」
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その言葉。
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核心。
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アリアが言う。
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「……なら」
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一歩近づく。
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距離。
ゼロ。
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「思い出さなくていい」
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真っ直ぐ。
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「もう一回、選びなさい」
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その言葉。
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強く。
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俺の中に入る。
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思い出す必要はない。
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過去じゃない。
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“今”。
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俺は頷く。
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「……はい」
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そして。
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“それ”を見る。
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「……終わらせる」
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存在干渉。
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完全発動。
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世界が“書き換わる”。
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最終局面。
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第64話 完




