第63話 思い出さなくても、負けない理由
「……回収を再開する」
その声が響いた瞬間――
空間が“折れた”。
視界が歪む。
上下も、距離も、全部がズレる。
「……っ!」
足場が消える。
だが――
「右!」
俺の口が勝手に動く。
同時に身体も動く。
アリアが迷いなく踏み込む。
ザンッ!!
空間ごと斬り裂く一撃。
“残滓”の腕が弾ける。
⸻
「……やっぱりね」
アリアが小さく呟く。
「覚えてなくても、身体は知ってる」
俺は息を吐く。
「……そのみたいですね」
正直、怖さはある。
でも――
それ以上に。
“分かる”。
どこに動けばいいか。
どこが危険か。
どうすれば勝てるか。
全部。
⸻
「……解析完了」
“残滓”が呟く。
その瞬間。
周囲の空間が複製される。
俺たちの“位置”がズレる。
同時に、同じ景色が何重にも重なる。
コメント欄(もしあれば混乱確定)。
「分身じゃない」
「空間コピー」
⸻
「……来る!」
俺が叫ぶ。
だが――
どこから来るか分からない。
いや、違う。
“全部から来る”。
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同時攻撃。
全方位。
完全包囲。
⸻
だが。
身体が先に動く。
「そこじゃない」
俺は一歩踏み出す。
“正しい位置”へ。
その瞬間。
攻撃がすべて外れる。
まるで――
“そこにいないかのように”。
⸻
「……!」
アリアが一瞬だけ驚く。
だがすぐに合わせる。
ザンッ!!
一撃。
“本体”に直撃。
⸻
「……ズレを見てるのね」
アリアが言う。
俺は頷く。
「……なんとなくですけど」
だがそれは嘘じゃない。
理屈じゃない。
“感覚”。
⸻
そのとき。
“残滓”が動きを止める。
「……異常」
低い声。
「記憶喪失状態での戦闘最適化」
「再現不可」
⸻
次の瞬間。
圧が変わる。
さっきまでとは別物。
「……第2段階移行」
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空間が潰れる。
音もなく。
ただ。
存在が圧縮される。
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「……っ!」
今度は避けられない。
完全な“圧”。
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その瞬間。
ぐいっ。
引き寄せられる。
ドン。
完全密着。
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「……離れないで」
アリア。
低い声。
だが。
確実に支えている。
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俺は言う。
「……離れてません」
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そのまま。
二人で踏みとどまる。
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そのとき。
頭の奥。
“何か”が弾ける。
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――歪む世界
――崩壊する都市
――同じように戦っている自分
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「……っ!」
一瞬。
視界が二重になる。
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「どうしたの!?」
アリアの声。
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俺は息を荒げる。
「……見えた」
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「……何が?」
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「……前も」
言葉がうまく出ない。
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「……同じこと、してる」
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その瞬間。
“残滓”が反応する。
「……記憶断片検出」
「危険度上昇」
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次の瞬間。
攻撃が変わる。
“消去”じゃない。
“切断”。
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存在そのものを分断する攻撃。
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「……それはダメだ」
俺が呟く。
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身体が勝手に動く。
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一歩。
踏み出す。
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存在干渉。
発動。
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だが――
今までと違う。
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「……繋ぐ」
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ズレているものを。
戻すんじゃない。
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“繋ぎ直す”。
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その瞬間。
切断されかけた空間が戻る。
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「……!」
“残滓”が初めて大きく反応する。
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「……干渉方式変化」
「再現不可」
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アリアが叫ぶ。
「今!!」
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俺は頷く。
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完全に。
理解している。
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“ここだ”。
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二人同時に踏み込む。
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「終わり!!」
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ザンッ!!!!!!!
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直撃。
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“残滓”の体が崩れる。
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だが――
完全には消えない。
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「……まだか」
俺が呟く。
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“残滓”が笑う。
初めて。
明確に。
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「いい」
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「記憶がなくても」
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「“本質”は残る」
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その言葉。
妙に引っかかる。
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「……本質?」
俺が聞く。
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“残滓”は答える。
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「お前は」
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「“繋ぐ側”だ」
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その瞬間。
頭の奥で何かが繋がる。
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――世界を戻す
――壊れたものを繋ぐ
――消えたものを引き戻す
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「……っ!」
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記憶じゃない。
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“理解”。
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そのとき。
“残滓”の体が崩れ始める。
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「……時間切れだ」
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「だが」
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最後に。
こちらを見る。
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「次は“本体”が来る」
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そして。
消える。
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完全消滅。
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静寂。
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俺は息を吐く。
「……終わりましたね」
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アリアがすぐに寄る。
ドン。
密着。
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「……無事?」
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俺は笑う。
「はい」
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その瞬間。
アリアがほんの少しだけ力を抜く。
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「……よかった」
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しばらく。
そのまま。
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風が吹く。
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静か。
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だが。
俺は空を見る。
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「……本体、来ますね」
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アリアが頷く。
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「ええ」
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そして。
手を握る。
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強く。
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「……次で終わり」
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俺は答える。
⸻
「はい」
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その瞬間。
また一瞬だけ。
記憶がよぎる。
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アリアと戦っている。
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笑っている。
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手を繋いでいる。
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「……ああ」
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思わず呟く。
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「……何?」
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アリアが聞く。
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俺は少しだけ笑う。
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「……やっぱり」
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「知ってる気がします」
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アリアが一瞬止まる。
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そして。
ほんの少しだけ笑う。
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「……でしょ」
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戦いは。
最終段階へ。
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第63話 完




