第61話(第2部・第1話) もう一度、同じ場所から
「……ここ、好き?」
アリアが聞く。
屋上。
あの日と同じ場所。
風。
少しだけ強い。
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俺は空を見上げる。
「……好き、ですね」
理由は分からない。
でも。
落ち着く。
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アリアは少しだけ笑う。
「……よかった」
小さく。
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手は。
自然に繋がっている。
もう。
違和感すらない。
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あの日から。
数日。
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俺の記憶は――
戻っていない。
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名前。
生活。
最低限はある。
だが。
“それ以上”がない。
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戦い。
能力。
世界を変えた出来事。
全部。
抜け落ちている。
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それでも。
困ってはいない。
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なぜなら――
隣に。
アリアがいるから。
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「……今日はどこ行く?」
俺が聞く。
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アリアは少しだけ考える。
そして。
「どこでもいい」
答える。
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「……雑ですね」
俺が苦笑すると。
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アリアが少しだけ睨む。
「あなたとなら」
一瞬。
間。
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「どこでもいい」
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ストレート。
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俺は少しだけ照れる。
「……そうですか」
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そのとき。
ポケットのスマホが震える。
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「……?」
取り出す。
見知らぬ通知。
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【緊急報告】
【未確認ダンジョン出現】
【Sランク以上の反応】
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俺は眉をひそめる。
「……ダンジョン?」
言葉は知っている。
だが――
実感がない。
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アリアの表情が変わる。
一瞬で。
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「……来たわね」
低い声。
完全に。
“戦闘の顔”。
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俺は言う。
「知ってるんですか?」
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アリアは少しだけ間を置く。
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「ええ」
短く。
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そして。
俺の手を握る。
強く。
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「……行くわよ」
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迷いなし。
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俺は少し戸惑う。
だが――
なぜか。
怖くない。
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「……はい」
自然に。
答えていた。
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そのとき。
遠く。
空が歪む。
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黒い裂け目。
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見たことないはずなのに。
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「……あれ」
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胸の奥がざわつく。
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既視感。
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“知っている”。
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だが。
思い出せない。
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アリアが言う。
「……大丈夫」
小さく。
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「私がいる」
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その言葉。
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なぜか。
すごく。
安心する。
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俺は頷く。
「はい」
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手を握る。
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強く。
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そして。
走り出す。
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その瞬間。
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ほんの一瞬だけ。
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視界に。
“別の景色”が映る。
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崩壊する世界。
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誰かと戦っている。
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その隣に――
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アリア。
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「……!」
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一瞬で消える。
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「どうしたの?」
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アリアが聞く。
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俺は首を振る。
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「……なんでもないです」
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だが。
確信する。
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“何か”は残っている。
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記憶じゃない。
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もっと深い場所に。
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そして――
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その先。
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黒い裂け目の奥。
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“何か”がこちらを見ている。
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「……見つけた」
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声。
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誰でもない。
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だが。
確実に。
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“外側”。
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第2部、開幕。
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第61話 完




