第59話 失っていくものと、それでも残るもの
「……また、抜けた」
夕方。
同じ屋上。
風は穏やか。
だが――
俺は額に手を当てる。
さっきまで考えていたこと。
それが。
思い出せない。
「……ユウト?」
隣。
アリア。
すぐに気づく。
距離。
ゼロ。
当たり前のように。
腕が触れている。
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「……大丈夫です」
俺は言う。
だが――
分かっている。
これは。
“進んでいる”。
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存在干渉。
あの戦い。
限界まで使った代償。
それは――
“記憶”。
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「……何を忘れたの?」
アリアが聞く。
真剣に。
俺は答える。
「……さっきまでの会話、少し」
正直に。
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アリアの表情が揺れる。
「……そう」
小さく。
だが。
次の瞬間。
ぐいっ。
引き寄せられる。
ドン。
密着。
完全に。
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「……じゃあ」
低い声。
「今のは覚えて」
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そのまま。
顔が近づく。
距離。
ほぼゼロ。
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「……私が」
一瞬。
言葉を止める。
だが――
逃げない。
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「あなたの隣にいる」
はっきりと。
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俺は少し驚く。
だが。
すぐに笑う。
「それは知ってます」
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その瞬間。
アリアが少しだけ睨む。
「違う」
一言。
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そして。
さらに近づく。
完全に。
呼吸が触れる距離。
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「……好き」
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静かに。
だが。
はっきりと。
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コメント欄(もし配信なら即爆発)。
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俺は止まる。
一瞬。
思考が止まる。
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だが。
次の瞬間。
自然に言葉が出る。
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「……俺もです」
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迷いなし。
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その瞬間。
アリアがほんの少しだけ目を閉じる。
「……やっと」
小さく。
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そして。
そっと。
触れる。
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軽く。
だが。
今度は。
確かに。
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離れない。
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しばらく。
沈黙。
ただ。
触れている。
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風が吹く。
だが――
二人は動かない。
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やがて。
アリアが少しだけ離れる。
だが。
手は離さない。
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「……これで」
小さく。
「もう曖昧じゃない」
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俺は頷く。
「はい」
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そのとき。
俺はふと気づく。
「あれ……?」
違和感。
また。
何かが。
抜ける。
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「……どうしたの?」
アリアがすぐに聞く。
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俺は言う。
「……さっきの」
少し考える。
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「……何話してましたっけ?」
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沈黙。
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アリアが一瞬止まる。
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そして。
小さく息を吐く。
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「……そう」
理解する。
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だが。
次の瞬間。
強く手を握る。
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「……なら」
一歩近づく。
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ドン。
密着。
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「何回でも言う」
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真っ直ぐ。
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「私が隣にいる」
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俺は少しだけ笑う。
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「……安心しますね」
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その瞬間。
アリアがほんの少しだけ笑う。
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「……でしょ」
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遠くで。
リゼが呟く。
「……切ないね」
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カイが一言。
「だが強い」
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夕焼け。
空が赤く染まる。
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記憶は消えていく。
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だが――
それでも。
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“今”は残る。
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隣にいる。
その事実だけは。
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何度忘れても。
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きっと。
また。
同じ場所に戻る。
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「……離れないで」
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アリアが小さく言う。
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俺は答える。
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「はい」
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それだけで。
十分だった。
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第59話 完




