第58話 静かな世界と、少しだけ足りない感覚
「……平和、ですね」
屋上。
昼。
青空。
あの戦いが嘘みたいに。
静かだ。
俺は空を見上げる。
だが――
どこか。
違和感。
「ええ」
隣。
アリア。
距離。
ゼロ。
肩が触れる。
手は――
もう最初から繋がっている。
当たり前のように。
⸻
「……どう?」
アリアが聞く。
俺は少し考える。
「……少しだけ」
手を見る。
「“鈍い”です」
正直に。
存在干渉。
あの戦いで。
使い切った。
コメント欄(後追い解析勢)。
「代償来た」
「やっぱり」
⸻
アリアの表情が変わる。
「……どのくらい?」
真剣。
俺は答える。
「前みたいに、全部は見えません」
「ズレは分かるけど」
「深くは触れない」
つまり――
弱体化。
⸻
アリアが少しだけ俯く。
「……そう」
小さく。
だが。
すぐに顔を上げる。
「でも」
一歩近づく。
さらに。
距離ゼロ。
「生きてる」
それだけでいい。
その目。
真っ直ぐ。
⸻
俺は笑う。
「まあ、そうですね」
その瞬間。
アリアが少しだけ睨む。
「軽い」
いつもの。
だが――
どこか安心している。
⸻
そのとき。
ドアが開く。
リゼとカイ。
「おー、やっぱここか」
リゼが手を振る。
カイは一言。
「回復は?」
俺は答える。
「ぼちぼちです」
⸻
リゼが言う。
「ニュース見た?」
タブレットを見せる。
そこには――
世界中の報道。
「“未確認高位存在の消滅”」
「“都市崩壊未遂事件”」
「“特異探索者ユウト・カグラ”」
完全に。
世界規模。
コメント欄。
「主人公バレバレ」
「もう隠せない」
⸻
俺は苦笑する。
「……有名人ですね」
リゼが笑う。
「今さら?」
カイが一言。
「逃げられない」
現実。
⸻
そのとき。
俺はふと気づく。
「あれ?」
違和感。
アリアを見る。
「どうしたの?」
俺は言う。
「……名前」
アリアが首を傾げる。
「何?」
俺は少し考える。
「……いや」
違う。
何かが。
“抜けている”。
だが――
思い出せない。
⸻
コメント欄。
「記憶?」
「代償?」
⸻
アリアが少しだけ不安そうに言う。
「……大丈夫?」
俺は笑う。
「たぶん」
その瞬間。
アリアがぐいっと引き寄せる。
ドン。
密着。
完全に。
「……たぶんじゃない」
低い声。
だが。
少しだけ震えている。
⸻
俺は言う。
「大丈夫ですよ」
アリアが即答。
「……ちゃんと見て」
真っ直ぐ。
俺を。
「消えないで」
その言葉。
初めて。
はっきりと。
⸻
俺は少しだけ驚く。
だが。
すぐに頷く。
「消えません」
その瞬間。
アリアがほんの少しだけ安心する。
「……ならいい」
⸻
リゼが小声で言う。
「もうそれ言ってるよね」
カイが一言。
「確定だな」
俺は苦笑する。
「聞こえてますよ」
⸻
そのとき。
アリアが少しだけ迷う。
そして――
手を強く握る。
「……ね」
「はい」
「これからも」
一瞬。
言葉を選ぶ。
「……一緒にいるでしょ?」
また。
遠回し。
だが――
もう十分。
⸻
俺は迷わず答える。
「もちろんです」
⸻
その瞬間。
アリアがほんの少しだけ笑う。
「……ならいい」
⸻
そして。
ほんの少しだけ。
距離を詰める。
肩だけじゃない。
体ごと。
自然に。
⸻
「……離れないで」
小さく。
だが。
もう確認じゃない。
“前提”。
⸻
俺は答える。
「はい」
⸻
青空。
静か。
だが――
完全な平和じゃない。
どこか。
“欠けている”。
⸻
存在干渉の代償。
それは――
まだ。
完全には分からない。
⸻
だが。
一つだけ確かなこと。
⸻
隣には。
アリアがいる。
⸻
それだけで。
今は十分だった。
⸻
第58話 完




