第36話 当たり前になった距離と、新しい始まり
「……起きて」
朝。
静かな部屋。
俺はぼんやりと目を開ける。
「……ん」
視界に入るのは――
アリア。
近い。
というか。
近すぎる。
顔。
数センチ。
「……近いですね」
寝起きで呟く。
アリアは平然。
「普通でしょ」
コメント欄(※非配信だが脳内ツッコミ)。
普通じゃない。
完全に。
だが――
違和感がない。
これがもう。
“日常”になっている。
「……いつからですか」
俺が聞く。
アリアは少しだけ目を細める。
「昨日から」
即答。
「……」
「拒否は?」
軽く。
でも。
逃げ道は用意している。
俺は苦笑する。
「ないです」
その瞬間。
アリアがほんの少し笑う。
「……ならいい」
そして。
そのまま。
さらに少しだけ寄る。
「……」
「……」
沈黙。
だが。
嫌じゃない。
むしろ――
落ち着く。
⸻
数十分後。
街。
いつもの配信開始。
同時接続。
150万人。
コメント欄。
「来た」
「朝から」
「距離どうなってる」
「……これ見せるんですか?」
俺が小声で言う。
アリア。
当然のように腕を絡めている。
密着。
完全に。
「問題ある?」
「いや……」
あるけど。
ない。
コメント欄。
「慣れた」
「通常」
そのまま。
歩く。
距離。
ゼロ。
そのとき。
コメント欄がざわつく。
「速報」
「来た」
画面に表示される。
⸻
『Sランクダンジョン出現』
⸻
場所。
未踏区域。
報酬。
国家レベル。
コメント欄。
「でかい」
「新章」
俺は呟く。
「……来ましたね」
アリアの目が変わる。
「行くわよ」
即答。
迷いなし。
コメント欄。
「早い」
「さすが」
そのとき。
別の通知。
⸻
『特別招集:トップ探索者合同攻略』
⸻
参加候補。
・ユウト&アリア
・リゼ
・他S級探索者多数
コメント欄。
「全員集合」
「祭り」
俺はアリアを見る。
「どうします?」
アリアは少しだけ考える。
そして。
「出る」
短く。
「全部潰す」
強い。
コメント欄。
「女王」
「安心」
俺は苦笑する。
「ですね」
そのまま。
手を取る。
指が絡む。
自然に。
そのとき。
アリアが小さく言う。
「……ね」
「はい」
「今回」
少し間。
「近いままで行くから」
確認。
俺は笑う。
「今さら変えませんよ」
その瞬間。
アリアがほんの少し笑う。
「……当然」
⸻
その頃。
別の場所。
巨大施設。
複数の探索者。
そして――
リゼ。
「来るでしょ」
小さく笑う。
その隣。
見知らぬ男。
「……あれが例の二人か」
低い声。
強い気配。
「面白そうだ」
新たな存在。
リゼが言う。
「今回」
「ちょっと荒れるよ?」
意味深。
⸻
街。
二人。
配信継続。
距離。
ゼロ。
だが。
もう違う。
それはただの距離じゃない。
“当たり前の関係”
そして――
新しい戦いが始まる。
⸻
アリアが小さく言う。
「……ね」
「はい」
「今回も」
少しだけ目を細める。
「離れないでよ」
俺は答える。
「はい」
そのまま。
手を握る。
強く。
「絶対に」
⸻
関係は完成した。
次は――
“世界を相手にする段階”




