第32話 崩される瞬間と、崩れない理由
大会前夜。
探索者施設・個室。
「……」
静かすぎる。
俺はスマホを見ていた。
配信ランキング。
変動が激しい。
⸻
1位:ユウト&アリア
2位:リゼ(差:僅か)
⸻
コメント欄(事前配信)。
「詰めてきてる」
「やばい」
俺は小さく息を吐く。
「完全に来てますね」
そのとき。
ドアが開く。
アリア。
「……見てる?」
「はい」
俺は画面を見せる。
アリアは一瞬だけ確認する。
そして。
「関係ない」
即答。
だが――
声が少しだけ硬い。
コメント欄。
「強がり」
「分かる」
俺は言う。
「大丈夫ですか?」
アリアは視線を逸らす。
「問題ない」
短い。
だが。
分かる。
問題ある。
そのとき。
通知。
ピロン。
画面に表示される。
⸻
『特別映像:リゼ配信』
⸻
コメント欄。
「きた」
「罠」
俺は再生する。
映像。
リゼ。
笑っている。
「こんばんは」
軽いトーン。
だが。
内容は――
「今日はちょっとだけ」
「面白いもの見せるね」
画面が切り替わる。
そこに映るのは――
過去の戦闘映像。
俺とアリア。
だが。
編集されている。
わずかなズレ。
連携の乱れ。
そして――
“アリアの動きが遅れた瞬間”だけを抜き出した映像。
コメント欄。
「うわ」
「えぐい」
リゼの声。
「ほら」
「ここ」
「致命的だよね?」
冷静に。
分析。
「距離近すぎて」
「動き制限されてる」
一刀両断。
コメント欄。
「刺さる」
「これは痛い」
俺は隣を見る。
アリア。
無言。
目を逸らしている。
リゼが続ける。
「強いよ」
「間違いなく」
「でもさ」
一瞬。
間。
「そのままだと負けるよ?」
配信終了。
⸻
静寂。
重い。
アリアは動かない。
数秒。
そして。
小さく呟く。
「……分かってる」
低い声。
「全部」
コメント欄。
「来た」
「最大ダメージ」
俺はゆっくりと立つ。
そして。
アリアの前に立つ。
「見すぎです」
スマホを閉じる。
「……でも」
アリアが言う。
「事実でしょ」
その瞬間。
顔を上げる。
目。
揺れている。
「私が足引っ張ってる」
初めての言葉。
完全な弱音。
コメント欄。
「きつい」
「ついに」
俺は即答する。
「違います」
はっきりと。
アリアが一瞬止まる。
「……じゃあ何?」
俺は言う。
「一緒に戦ってるだけです」
シンプルに。
「ズレもあるし」
「合うときもある」
「それだけです」
アリアは黙る。
俺は続ける。
「それに」
少しだけ笑う。
「離れる気ないんですよね?」
その瞬間。
アリアが固まる。
完全に。
「……」
沈黙。
数秒。
コメント欄。
「刺さった」
「逆転きた」
そして。
ぐいっ。
引き寄せられる。
ドン。
密着。
強い。
今までで一番強い。
「……当たり前でしょ」
低い声。
だが。
震えている。
「離れるわけない」
そのまま。
少しだけ顔を埋めるように寄る。
コメント欄。
「戻った」
「完全復活」
俺は小さく言う。
「じゃあいいじゃないですか」
アリアが小さく息を吐く。
「……ほんと」
「ずるい」
だが。
少しだけ。
笑っている。
そのまま。
手を取る。
指を絡める。
強く。
しっかりと。
「……ね」
小さく。
「明日」
「勝つわよ」
今度は迷いない。
完全に戻った。
俺は頷く。
「はい」
⸻
その頃。
リゼ。
モニターの前。
映像を見ながら。
「……へぇ」
小さく笑う。
「折れなかったか」
だが。
次の言葉。
「でも」
「十分揺れた」
目が細くなる。
「次で決める」
⸻
夜。
施設の廊下。
二人で歩く。
距離。
ゼロ。
だが。
今は違う。
ただの密着じゃない。
“繋ぎ直した距離”
「……ね」
アリアが小さく言う。
「はい」
「さっきの」
「はい」
「……ありがとう」
珍しい言葉。
俺は少し驚く。
「どういたしまして」
その瞬間。
アリアがほんの少し笑う。
「……絶対勝つ」
もう揺れていない。
⸻
大会は明日。
すべてが決まる。




