第26話 言葉の手前と、ほどけない距離
夜。
探索者施設の屋上。
街の光が遠くに広がっている。
「……静かですね」
俺が呟く。
隣には――
アリア。
いつもの距離。
いや。
それ以上に自然な距離。
肩が触れている。
当たり前みたいに。
コメント欄(配信は切っている)。
今は二人きり。
「……そうね」
アリアが小さく答える。
風が吹く。
髪が揺れる。
そして。
少しだけ。
こちらに寄る。
「……」
「……」
言葉はない。
でも。
離れる気配もない。
俺は苦笑する。
「なんか、こういう時間久しぶりですね」
アリアがちらっと見る。
「不満?」
「いや、逆です」
素直に答える。
「落ち着くなって」
その瞬間。
アリアが固まる。
ほんの一瞬。
そして。
視線を逸らす。
「……そう」
だが。
そのまま。
少しだけ。
肩を寄せる。
コメント(もし配信してたら)。
「これが答え」
沈黙。
だが。
不思議と気まずくない。
むしろ。
このままでいいと思える。
そのとき。
アリアが言う。
「……ね」
小さく。
「なんで」
少しだけ間。
「私だったの?」
突然の質問。
俺は少し驚く。
「え?」
アリアは視線を落とす。
「リゼの方が」
「強いし」
「面白いでしょ」
声は平静。
でも。
少しだけ。
不安が混ざってる。
俺は少し考える。
そして。
答える。
「確かに面白いですけど」
正直に言う。
アリアが一瞬だけ反応する。
だが。
続ける。
「でも」
「落ち着くのはアリアさんなんですよ」
その瞬間。
アリアが完全に止まる。
「……」
沈黙。
数秒。
そして。
ゆっくりと。
こちらを見る。
真っ直ぐ。
逃げない目。
「……それ」
小さく。
「ずるい」
「え?」
「そういうの」
「簡単に言わないで」
だが。
次の瞬間。
ぐいっ。
引き寄せられる。
ドン。
密着。
今までで一番自然な形。
強引じゃない。
ただ。
近くにいたい距離。
「……でも」
小さく。
「嫌じゃない」
そして。
そのまま。
ほんの少しだけ。
額が近づく。
触れそうな距離。
コメント(もしあれば)。
「限界」
俺は動けない。
距離。
数センチ。
呼吸。
近い。
だが。
触れない。
そのまま。
数秒。
止まる。
そして。
アリアが小さく息を吐く。
「……ね」
「はい」
「私」
一瞬。
言葉が止まる。
「……」
そして。
ほんの少しだけ。
顔を逸らす。
「……やっぱりいい」
言いかけてやめる。
だが。
そのまま。
手を取る。
指。
絡む。
「……その代わり」
少しだけ強く握る。
「離れないで」
はっきりと。
今までで一番。
迷いなく。
俺は笑う。
「離れませんよ」
即答。
その瞬間。
アリアが少しだけ笑う。
柔らかく。
「……知ってる」
そして。
そのまま。
肩を預けてくる。
完全に。
寄り添う形。
「……ね」
小さく。
「これ」
「もうほぼ決まってるわよね」
苦笑混じり。
だが。
どこか安心した声。
俺も笑う。
「そうですね」
「じゃあ」
アリアが少しだけ顔を上げる。
「……もう少しだけ」
「このままでいましょう」
はっきりとは言わない。
だが。
答えは同じ。
俺は頷く。
「はい」
そのまま。
夜景を眺める。
距離は。
変わらない。
いや。
もう。
これが普通。
そのとき。
遠く。
屋上の影。
誰かが見ていた。
リゼ。
「……そっか」
小さく呟く。
だが。
その目。
まだ終わっていない。
「じゃあ」
「最後やろうか」
静かに。
姿を消す。
⸻
屋上。
二人。
距離。
ゼロ。
言葉は少ない。
だが。
もう。
迷いはなかった。




