第19話 近すぎる日常と、ほどけない指
Sランクダンジョン、帰還ルート。
戦闘の気配はほとんどない。
だが――
「……まだ握ってるんですね」
俺が呟く。
アリアは隣を歩きながら。
視線も向けずに。
「ダメ?」
指。
絡んだまま。
ほどく気配は一切ない。
コメント欄。
「固定化」
「日常化」
俺は苦笑する。
「いや、別にいいですけど」
その瞬間。
アリアが少しだけこっちを見る。
「ならいい」
そして。
ほんの少しだけ。
指を絡め直す。
前よりも自然に。
コメント欄。
「これが本命」
「無意識強い」
沈黙。
静かな時間。
だが。
妙に落ち着く。
さっきまでの戦いが嘘みたいに。
「……」
ふと。
アリアが足を止める。
「どうしました?」
振り向く。
アリアは少しだけ顔を伏せる。
「……ちょっと」
そして。
ぐいっ。
引かれる。
ドン。
「……」
「……」
また密着。
今度は。
壁も敵もない。
ただ。
自然に。
距離がゼロになる。
コメント欄。
「日常密着」
「危険」
アリアの顔。
近い。
かなり近い。
でも。
今までと違う。
余裕がないわけじゃない。
ただ。
確認するような目。
「……ね」
小さく。
「さっきの」
「ほんと?」
「え?」
「私を見るってやつ」
一瞬。
言葉に詰まる。
ああ。
あれか。
「ほんとですよ」
即答。
その瞬間。
アリアが固まる。
ほんの一瞬。
そして。
ふっと息を吐く。
「……そう」
だが。
そのまま。
少しだけ。
寄る。
「ならいい」
コメント欄。
「安心した」
「完全デレ」
そのとき。
奥から気配。
モンスター。
小型。
雑魚。
「来るわよ」
アリアの声。
だが。
手は離さない。
「そのままでいい」
「え?」
「できるでしょ?」
そのまま。
距離ゼロで戦闘。
「いやこれ無茶――」
ザシュッ!!
斬撃。
モンスター撃破。
そのまま。
ドロップ。
⸻
ポン
ポン
ポン
ポン
ポン
⸻
コメント欄。
「この距離で戦うな」
「バグ」
アリアが小さく笑う。
「ほら」
「できる」
完全に試されてる。
だが。
悪くない。
むしろ。
妙に安心する。
「……慣れてきたかも」
俺が言うと。
アリアが一瞬だけ止まる。
「……そう」
そして。
少しだけ。
顔を逸らす。
耳。
赤い。
コメント欄。
「来た」
「照れ」
そのとき。
背後から声。
「へぇ」
振り向く。
リゼ。
少し離れた場所。
腕を組んでいる。
「もうそこまで行ったんだ」
少しだけ。
静かな声。
前みたいな煽りじゃない。
観察してる感じ。
アリアが一歩前に出る。
だが。
今回は。
引き寄せない。
ただ。
横に立つ。
距離は近いまま。
「……何しに来たの?」
リゼは肩をすくめる。
「別に」
「様子見」
そして。
少しだけ笑う。
「いい顔してるじゃん」
アリアの眉が動く。
「何それ」
リゼは答えない。
ただ。
俺を見る。
「ねえ」
「今はいいよ」
意外な言葉。
「でもさ」
指を立てる。
「次は本気で行くから」
その目。
完全に本気。
「そのときは」
「ちゃんと奪う」
宣言。
だが。
今回は引く。
そのまま。
背を向ける。
去っていく。
コメント欄。
「一旦撤退」
「嵐の前」
静寂。
アリアは少しだけ黙る。
そして。
ゆっくり。
俺の手を握り直す。
今度は。
しっかりと。
でも。
優しく。
「……ね」
小さく。
「次も」
「一緒に来る?」
今までと違う。
命令じゃない。
問い。
俺は即答する。
「行きますよ」
その瞬間。
アリアがほんの少しだけ笑う。
柔らかく。
今までで一番。
「……ならいい」
そのまま。
軽く。
肩が触れる。
寄り添うように。
「帰りましょ」
その声は。
完全に。
“いつもの強いアリア”じゃなかった。
少しだけ。
優しい。
⸻
ダンジョン出口。
光が差し込む。
現実へ戻る。
だが。
指は。
まだ絡んだまま。
ほどける気配はない。
⸻
第19話 完




