第16話 離さない理由と、初めての独占
デス・キマイラ討伐後。
ダンジョン深層は、静まり返っていた。
さっきまでの激戦が嘘みたいに。
ただ一つだけ違うのは――
「……まだ握ってるんですね」
俺が言うと。
アリアは視線を逸らしたまま。
「悪い?」
指。
絡んだまま。
解く気配はない。
コメント欄。
「継続中」
「手繋ぎ固定」
俺は苦笑する。
「いや、別に」
そのとき。
アリアが少しだけ顔を近づけてくる。
「ならいいでしょ」
距離。
近い。
自然すぎるくらいに。
前は“詰めてくる”感じだったのに。
今は――
ただそこにいる感じ。
コメント欄。
「変わった」
「距離の質が違う」
俺が言いかける。
「なんか今日――」
その瞬間。
ぐいっ。
引かれる。
ドン。
また密着。
「……」
「……」
顔。
近い。
息がかかる距離。
だが。
前みたいな“遊び”じゃない。
少しだけ真剣な表情。
「……何?」
「何か言いかけた?」
俺は一瞬、言葉に詰まる。
「いや……」
アリアはじっと見てくる。
逃がさない視線。
そのまま。
少しだけ近づく。
「言いなさい」
完全に主導権を握られている。
コメント欄。
「甘サド継続」
「でも優しい」
俺は小さく息を吐く。
「……距離近いなって」
アリアが一瞬だけ固まる。
そして。
すぐに。
ぷいっと顔を逸らす。
「今さらでしょ」
だが。
手は離さない。
むしろ。
少しだけ握り直す。
コメント欄。
「照れた」
「デレ確定」
そのとき。
「ふーん」
軽い声。
リゼ。
いつの間にか近くにいる。
「ほんとにベタベタしてるね」
ニヤニヤしている。
完全に煽り。
アリアが睨む。
「……何?」
リゼは肩をすくめる。
「別に?」
「ただ」
一歩。
近づく。
俺の反対側。
距離。
近い。
またこの構図。
「ちょっと試したくなっただけ」
その瞬間。
リゼの手。
俺の手首を軽く掴む。
「え?」
引かれる。
ぐいっ。
バランスが崩れる。
そのまま――
リゼの方へ。
ドン。
「……」
「……」
近い。
かなり近い。
顔。
数センチ。
コメント欄。
「来た」
「誘惑強化」
リゼは微笑む。
「ねえ」
「こっち来てみない?」
甘い声。
完全に引き込むタイプ。
その瞬間。
ぐいっ!!
強い力。
アリア。
俺を一気に引き戻す。
「っ……!」
再び密着。
今度は。
かなり強い。
ほぼ抱き寄せるように。
コメント欄。
「奪い返した」
「強い」
アリアの声。
低い。
「触らないで」
完全に拒絶。
リゼは笑う。
「怖い怖い」
だが。
楽しそう。
「でもさ」
「そこまでされたら」
俺を見る。
「逆に気になるでしょ?」
挑発。
アリアの手が一瞬だけ強くなる。
だが。
次の瞬間。
ふっと力が抜ける。
「……」
沈黙。
そして。
アリアは俺を見る。
まっすぐに。
今までで一番真剣な目。
「……ねえ」
小さな声。
「本当に」
「離れない?」
コメント欄。
「ガチ」
「これはガチ」
俺は即答する。
「離れませんよ」
その瞬間。
アリアの目がわずかに揺れる。
そして。
ゆっくりと。
俺の腕を引く。
今度は強引じゃない。
優しく。
自然に。
距離を詰める。
そして――
肩が触れる。
軽く。
寄り添うように。
「……ならいい」
ボソッと。
小さく。
だが確かに。
安心した声。
コメント欄。
「完全にデレた」
「勝ち」
リゼはそれを見て。
しばらく黙る。
そして。
ふっと笑う。
「へぇ」
「そういう感じなんだ」
少しだけ。
トーンが変わる。
遊びじゃない。
本気の興味。
「じゃあさ」
指を立てる。
「次は」
「ちゃんと奪いに行くね」
宣戦布告。
そのまま。
背を向ける。
去っていく。
静寂。
アリアは少しだけ黙る。
そして。
俺の腕を軽く引く。
「行くわよ」
だが。
そのまま。
少しだけ。
体を寄せる。
さっきより自然に。
「……」
小さく。
聞こえるかどうかくらいで。
「……渡さないから」
コメント欄。
「確定」
「完全ヒロイン」
俺は少しだけ笑った。
「はい」
その返事に。
アリアがほんの少しだけ笑う。
今までで一番――
柔らかく。
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ダンジョンの奥。
さらに深層へ。
二人で進む。
距離は。
もう。
無理に詰めるものじゃなかった。
自然と。
離れない距離になっていた。
⸻
第16話 完




