第348話 山里は 雪降り積りて 道もなし 今日来む人を あはれとは見む
皇城府に附設している演習場は、決して広くはない。21番機の稼動テストも、基本的な動作を確認するだけのものだ。
エリカにとっては独特のギミックである『6枚翼の大型推進機関』の稼動する様が、この上なく魅力的に映るようだ。21番機の移動と方向転換の度に目が釘付けになる。しかし、御堂には特に関心を引くものではなかった。
(全然、本気で動いてない)
高いポテンシャルの機体であることは間違いないが、その潜在能力を見る機会はなさそうだ。
21番機に興味を失った御堂の頭の中は、様々なことが駆け巡る。
……青い軍服を着ていた射流鹿のこと。
……月夜見の面接をキャンセルしたこと。
……第3戦団に誘われたこと
……帝国で内戦を止めたい気持ち
特に脳裏を離れないのは、青い軍服の後ろ姿である。
「あーーーーーーーーー!!」
唐突に、御堂は大声を上げる。
「何やってんのよ! ヒロインが、道に迷って身動き取れなくなってるのよ。こんな時に、偶然を装って現れて手を握ってくれたら……思わず運命感じちゃて『一緒に生きて行こう』とか思うでしょうが!」
「サクヤ……何言ってるの?」
エリカは思わず、御堂の背中に抱き付いて羽交い締めしてしまう。
「他に人がいるんだよ、静かに!」
「え?」
背中から押さえ込まれたまま、エリカの指先が指す後方に視線を移す。そこには三人組の女性の一団がいた。
「!」
気恥ずかしさに、さすがの御堂も顔を伏せた。顔面が熱気を帯びたのが、自分でもわかる。
「……御堂……准尉?」
聞き覚えのある声で名前を呼ばれ、ハッとして顔を上げた。そこにいたのは刀自古だった。
刀自古は、安全保障局の制服ではなかった。近衛軍の行政官の制服、それも青を基調にしたものである。戦艦『胡蝶』に翻っていた戦団旗と、同じ色の制服を刀自古が着ているのである。
エリカと刀自古が、社交辞令の挨拶をしている間に、御堂のテンションは上がっていく。
刀自古が、ここに来たのは偶然である。月夜見の知り合いが『21番機の稼動テストを見学したい』と申し出たので、秘書となった刀自古が名代で引率してきたと言う。月夜見の名前が出たことに、御堂のテンションが更に上がる。
「相楽行政官! これは、運命ですよね?」
嬉々として刀自古の手を握る御堂。その手は、犬の尻尾のように激しく揺れる。手を握られている刀自古の顔には、憂いの色が浮かぶのを御堂は気付かない。
「……運命、かも知れませんね」
運命。
それは、人生の途中に遭遇する、避けられない試練のことだと刀自古は痛感した。
『赤塵のサンダーバード』 - 完 -




