第344話 口封じ?
エリカの方が、御堂よりも頭の回転は早いようだ。御堂が反論しようと思考を巡らせる前に、エリカは話を切り替えてしまう。
三軍合同演習は、イルドラ公国軍・ナーガオウ州軍・皇城近衛軍が合同演習を行うことで「三者の平和的関係」を印象づける式典だった。皇城近衛軍から第2戦団が参加し、新型機のお披露目を行う。
しかし、イルドラ公国軍は「帝国の新型機を奪取する」機会として陰謀を巡らせた。
「もし、サクヤと入鹿准尉が殺されて新型機が奪われたていたら……実は、三軍合同演習は平和的に終わっちゃったんだよ。重甲機兵とそのパイロットが神隠しに遭ったとか怪事件扱いされただろうけどね」
「……あ」
全く同じことを、尋問室で刀自古に言われたのを思い出す。
「三軍合同演習でナーガオウ州軍とイルドラ公国軍が内通してるのが明るみに出て、ルージュピークや州都の戦いで何十人・何百人が犠牲になったかも知れないけど、わたしはそれでも良かったと思ってるよ。サクヤが死なないでいてくれたんだから」
「……と」
エリカの言葉に「ありがとう」と言ったつもりだが、込み上げてくるものに声にならなかった。
「嵯峨州解放戦だって同じだったと思うよ」
第3戦団が『帝の敵』となった報を受けて、嵯峨州議会は、都市防衛に駐屯する南部方面軍に都市外への退去を求めた。対して、嵯峨州に駐屯していた南部方面軍は、嵯峨州の発電所などの都市インフラ施設を占拠して州議会を逆に脅迫したのである。
脅迫に屈しない嵯峨州議会は、ラインゴルド傭兵機団に『南部方面軍を都市外へ駆逐する』ことを依頼し、それに第2戦団も共闘した。
「第3戦団はさ、ずっと悪事を見て見ぬフリをして来たんだよ。そこに今更、事実を突き付けたら発狂して、逆にサクヤが口封じされちゃうよ。イタい女で済んでるのは幸運じゃん」
「……ん」
御堂は、刀自古に「会談の切っ掛けを作ったのは自分だった」と言い、だからこそ「和解を成立させる」と宣言した。しかし、今エリカからは「御堂が生き延びたことが、全ての戦いの幕開け」のように言われてしまった。
御堂は、返す言葉を完全に失ってしまう。
「気分転換に外に行こうよ。すごっく甘いものが食べたくなっちゃった」
そう言うとエリカは立ち上がって、上着を羽織る。
「うん。思いっきり苦い飲み物もね」
「はい、はい」
御堂も上着を着込むと、エリカの後を追いかけてホテルの部屋を出る。数時間のデザート休憩を挟んで、二人きりの卒業祝いの宴は明け方まで続いた。




