第342話 二人だけの卒業式
士官大学の卒業式をキャンセルした御堂に、山根エリカから連絡が入る。
山根エリカは第2戦団の整備兵で、旗艦『朱雀』では御堂の愛機であったGV3Xを担当してくれていた。御堂には個人的に親しい友人の一人である。
御堂の卒業を祝うために、休暇を取って首都・不死鳥京へ赴くと言う。卒業式をキャンセルして時間を持て余していた御堂は、二つ返事でエリカの来訪を受け入れる。
「ええ! 卒業式、すっぽかしちゃったの?」
「すっぽかしてないわよ。ちゃんと欠席を伝えて、卒業証書は実家に送付してもらうように手続きしてあるの!」
実家が座間領にある御堂は、卒業式に出るため、不死鳥京に短期滞在するつもりでホテルを確保していた。そのホテルの一室に、エリカと一緒に酒や料理を運び込む。
エリカは小さな花束と、第2戦団の面々から預かってきた祝いの品を手渡した。整備班の興田主任、いつの間にか兄貴分として頼ってしまった新藤中尉、前哨基地・医務室のクリステア軍医らの懐かしい名前に涙が滲みそうになる。
「へえ。第3戦団の中では、そう言う解釈だったんだ」
御堂が、第3戦団に仮配属していた同期生から聞いた『情報操作』の件にはエリカも呆れる。
「でもさ。第3戦団に仮配属していた同期は、みんな卒業を保留されたんでしょう。卒業式では、顔を合わせないんじゃないの?」
「そうだけどさ。何か、スゴく気分が悪くなっちゃって」
言われてみれば、エリカの言う通りである。少し「はやまった」かも知れないと後悔の気持ちも生まれる。
「相変わらず、扁桃体と脊椎反射だけで生きてるんだね」
扁桃体とは、脳の中で感情を生み出す部位と言われている。そんな知識を有しない御堂だが、自身が悪口を言われていることだけは理解できる。
「デマでイタい女とか言われたら、気分悪いでしょうが!」
「疫病神より、イタい女の方がマシかも知れないよ。少なくとも、嫁の貰い手はありそうじゃん?」
「誰が、やく……」
否定しようとして、思わず言葉に詰まってしまう。嵯峨州議事堂包囲戦での間抜け行為は、御堂は明らかに疫病神でしかなかったのだから。
応急的に作られた棺の中で、首から上を失っていたネロの遺体が脳裏によみがえる。
『……こうなってしまいますから』
そして、夢の中に現れたネロが、自身の首を両手に持って呟く声も聞こえた気がした。
「あ……ごめん」
沈み込む御堂に気付いたエリカが、思わず謝罪を口にする。
暫しの沈黙の後、気分を変えた二人は持ち込んだワインの栓を抜く。




