第339話 おねだり?
三日の後。月夜見は、皇城府に戻っていた。
射流鹿と旗艦『胡蝶』は、ラインゴルドによるA級0061機の修理を待って、今もS33中継基地に留まっている。
皇城府の北端にある『太后の庭園』で、月夜見は太后の手料理を堪能していた。
「副官の職は、楽で良いな。統括司令官に任せて、いつでも前線を離れられる」
「いい加減にして下さい!」
幼少の頃から射流鹿は月夜見の世話になっている。剣や体術、重甲機兵の操縦を教えてきた師匠のような存在だ。射流鹿が月夜見に対しては強く出られないからと、好き勝手に振る舞っていることに太后が不満を漏らす。
「貴女の我が儘を受けて、刀自古を『第4戦団に派遣』したんですよ。第4戦団本部の下見すらしないで、ここにご飯のおねだりしに来るのは何様ですか!」
振り袖姿の女が、海産物の天ぷらがのった器を運んでくる。月夜見は、その天ぷらの一つを塩ではなくツユに浸して口に運んだ。
……ガチャン
乱暴に置かれた吸い物の椀が、大きな音を立てた。どうやら「塩で食べて欲しい素材」だったらしい。
「刀自古は、第4戦団本部で待っているんです」
「わかった。食事を済ませたら、本部へ向かう」
食事の後は緑茶が運ばれてきた。普段は月夜見の好みに合わせて紅茶のはずである。太后の機嫌は、相当に悪いらしい。
S33中継基地での襲撃事件のあらましは、皇城府に報告した。『無制限かついかなる法の制約を受けない』報復の対象を、南部方面軍だけとしたのが気に入らないのだろう。
「戦艦『グリフォン』艦長を信じたラインゴルド側の面子もある。この襲撃事件で、第3戦団を共犯と判断するのは待って欲しい」
「ラインゴルドに借りを作ったのも、貴女の我が儘が原因です」
その通りである。さすがの月夜見も返す言葉がない。
御堂をラインゴルドに推薦しようと、嵯峨州解放戦に第2戦団を介入させたことでラインゴルドの副機団長を失わせてしまう。その穴埋めにと「会談の口利き料」をラインゴルドに入るようにした結果なのだ。
分が悪過ぎる……そう判断した月夜見は、仕方なく席を立つ。
「第4戦団の本部へ行って下さいね」
「ああ、刀自古が待っているのだろう」
庭園を出る際に、振り袖の女が小さく頭を下げてきた。頭こそ下げたが、その双眸には月夜見への敵意のようなものが籠もる。
里見茉莉花。
安全保障局の警務官として、太后の側で護衛を務めている。太后にも帝にも気に入られており、射流鹿の許嫁でもある。
二人の結婚に反対しているのは、月夜見一人だけだった。




