第335話 妾も若いです!
御堂が本庄郷領へ来たのは、第4戦団への入団を希望したからであった。刀自古のツテを頼って月夜見に面接を懇願し、第4戦団・旗艦『胡蝶』に乗艦を許された。
突発的な事件での、第3戦団の東城准将と日嗣皇子の会談が約束され、それを南部方面が襲撃して戦闘となった。その戦闘にしゃしゃり出た御堂が、東城准将を守ったことから、東城准将に第3戦団に誘われたのである。
身を挺して人命を守ったことに対する東城准将の感謝の言葉は、御堂にとって「他人を守ったことを感謝された」初めての経験だった。そして、東城准将の、真摯に「戦いを止めようとする」気持ちにも共感した。
そして、気付いたときには月夜見との面接をキャンセルしていた。
「第3戦団と皇城府が戦ったら、西方域が火の海になるって言ったじゃないですか。それを止めなきゃいけないんです!」
御堂は必死の決意を口にするが、刀自古はそれを聞き流す。そして、口の中で小さく呟いた。
「貴女の年齢では『帝国の悪夢』は、詳しく知らないのでしょうね」
かつて。
帝国外勢力の支援を得た反帝派が、先帝を誅殺した『赤椿の変』により『帝国の悪夢』と呼ばれた暗黒時代が始まる。
利権と結びついた国家上層部が帝国民を搾取し、呼び込まれた帝国外勢力が帝国民を略奪し差別する……帝国民が搾取と差別に晒された時代を『帝国の悪夢』と呼ぶ。
「妾だって、年長者から聞き知っただけですけどね」
「あたしは『帝国の悪夢』の後の生まれですけど、相楽行政官は真っ只中の生まれじゃないですか」
刀自古の「一応、妾も若いです」アピールを感じ取った御堂は、脊髄反射でツッコミを口に出してしまった。
「……」
水蛭鹿帝の武力蜂起により、帝国外勢力と反帝派は駆逐され『帝国の悪夢』は終わる。それから太后による反帝派への非情な粛清が始まった。
太后の粛清から逃れるため、反帝派は「皇城府の監視の厳しい」直轄領から逃れて、各都市が自治権を有する外殻都市に潜伏する。
西方域は外殻都市が多い。西方域の守護を任じられた第3戦団は、戦火を交えて反帝派を制圧するより、戦禍を避けて「反帝派の巣くう外殻都市」との共存を選んでしまう。
「戦火を交えることを避けるため、第3戦団は反帝派を容認せざるを得なくなりました。その結果、南部方面軍が反帝派に侵食されてゆきます。貴女は、南部方面軍が都市を火の海にすることも躊躇しないのを、ナーガオウ州議事堂包囲戦や嵯峨州解放戦で見てきたのではありませんか?」
刀自古の指摘に、今度は御堂が押し黙る。




