第334話 時間の無駄
カチャン!
コーヒーカップが乱暴にソーサーの上に戻された。
「じゃあ! やっぱり、あたしが皇城府と第3戦団を和解させないといけないんです。ボーンヘッドであっても、あたしが、玲に『会談に応じる』よう仕向けたことになるんですから!」
御堂が「他人の話を聞かない」のは今に始まったことではないのが、そこに行き着く思考と発想は刀自古にはなかった。もう一度説明するのも面倒だし、説明したところで理解される保証もない。
取り敢えず、刀自古は沈黙することを選ぶ。
(玲が会談に応じる切っ掛けは、あたしが作った)
(もう一歩踏み込んで、和解に持ち込むんだ)
(そうすれば、帝国での内戦は避けられるはず)
沈黙する刀自古を余所に、御堂は独りで納得していた。それでも、やはり思考はそこで止まってしまう。
(よく考えろ、あたし)
(まだ、第3戦団と皇城府は戦ってない)
(第3戦団と戦ったのは、玲だけなんだ)
奇しくも「当事者である日嗣皇子との和解」を打開策と捉えた東城准将と同じ方向に御堂の思考も流れる。
しかし、御堂の記憶の中では「入鹿玲と言う人間は、規律に対して極めて厳格」だった。それが、今は日嗣皇子の立場となり、更に頑なになっていそうな雰囲気である。
「うーん」
沈黙している刀自古の目の前で、御堂の唸り声が漏れる。
「脳に糖分が回ってないようですから、ケーキでも追加しますか? 取り敢えず、唸り声を止めるために、口に何か入れたら如何ですか?」
「第3戦団に入って『南部方面軍とガルーダ部隊を処分させる』のと、第4戦団に入って『玲を説得する』の……どっちが可能性高いと思いますか?」
「ケーキはいりませんか? 妾のアメリカンコーヒーは、貴女に取られてしまったので、もう一杯注文しますけど」
刀自古は、御堂の話には興味を示さず、卓上タブレットで追加注文の操作をする。
「あの! 真剣に『帝国の内戦を止めよう』と言う話をしてるんですけど!」
「月夜見様との面接をキャンセルした貴女は、もう第4戦団には入れません。第3戦団に入るつもりなら叛逆の意思ありとして、この場で逮捕します。だから、どちらの選択肢もありません。考えるだけ時間の無駄です」
「それじゃあ、第3戦団と皇城府の戦いで、西方域が火の海になるって言うのを止められないじゃないですか!」
思わず、御堂は大声を出してしまう。その時、自分を見返す刀自古の視線が氷のように冷たいことに、ようやく御堂は気付く。
「それが貴女の選択です。妾が『そうしろ』と言ったわけではないですよ」




