第333話 ボーンヘッド
「絶対に、止めます!」
刀自古がさらりと口にした「外殻都市は、火の海」に対して、御堂は力を込めて反論した。
「玲は……第3戦団との会談にも応じたんです。玲だって、戦いを避ける方法を模索しているはずです!」
「多分、違いますよ」
御堂の言葉を否定する刀自古の顔には、特に感情は籠もっていなかった。解き終わった数式の答えを報告するだけのように、どこか他人事の感があった。
「何で、違うと言い切れるんですか!」
問い質した御堂の方に、思わず力が籠もる。御堂には「玲を信じたい」気持ちがあるからだった。
第2戦団を離れて安全保障局本部に戻っていた刀自古の元にも、嵯峨州解放戦の情報は入っている。月夜見が、御堂の進路を慮ってラインゴルド傭兵機団に打診を入れたことも知っていた。
そして……その結果として、皇城近衛軍がラインゴルド傭兵機団に対して「極めて大きな借り」を作ってしまう。
「嵯峨州解放戦は、ラインゴルド傭兵機団が嵯峨州議会から受けた仕事です。そこに、月夜見様の横やりで第2戦団が介入しました」
それは御堂も知っている。それが、自分を試すために設けられた機会だったことも。
「結果として、ラインゴルドの副機団長を失わせてしまいました。パイロットの、完全なるボーンヘッドのために」
ボーンヘッド……失策ですらない「間抜けな行為」を差す言葉を、刀自古は敢えて使う。
肩をすくめて、御堂は俯くしかできなかった。
「ラインゴルドの損失に対する、僅かばかりの穴埋めですよ。会談に応じることで、ラインゴルドに口利きの仲介料が入るように仕向けただけで……大兄様に、第3戦団との和解をする意思は全くないでしょう」
刀自古は、射流鹿を大兄と呼ぶ。帝位継承第一位の者を差す敬称である。
「そんなこと、わからないじゃないですか!」
御堂の顔には、どこか悲壮な意思が籠もっていた。それを見た刀自古は、敢えて否定せずに頷いて見せる。
「そうですね。わかりませんね」
いや、わかっている。
帝国の悪夢を終わらせた『白菊の変』以降、非情な粛正を行ってきた太后の気性を色濃く受け継いだ射流鹿に『敵対者を赦す』と言う選択肢はない。
そして、溺愛する射流鹿の暗殺を謀った以上、月夜見も太后も収まらないはずだ。帝ですら止められないだろう。
「相楽行政官が飲まないのなら、それ貰います!」
そう言うと、刀自古が手をつけなかったアメリカンコーヒーを自分の方へ引き寄せると、角砂糖を放り込んだ。そして、一気に飲み干してしまう。




