第327話 繰り返す失敗
「身内に甘く、他人のせいにする……第3戦団で、一番出世するタイプの人間ではないか」
そう言って、月夜見は笑い出す。月夜見の笑いが収まるまでの間、射流鹿とベルーナは話題を変えることにした。
「会談の警備のために一般人の立ち入りを制限していたので、人命に関わる被害がなかったのが不幸中の幸いでした」
「ターミナルビルの従業員も無事だったのですか?」
「はい。戦艦『胡蝶』がターミナルビルの盾になるために移動した際に、非常警報を鳴らしてくれたので、従業員も早めに地下に避難できました」
「そうでしたか」
月夜見が「口煩くて融通が利かない」と評す戦艦『胡蝶』の艦長だが、能力は高い。更に戦闘以外の面でも気配りが細かいらしい。
ようやく落ち着いた月夜見は、ベルーナの前に一枚の書類を差し出した。
「S33中継基地の補償に関して、当面は第1戦団が負担する旨の覚え書きだ。第1戦団統括司令官の署名もある。カイザーが、嵯峨州議会と協議をする際には役に立つだろう」
帝直轄の第1戦団で、その統括司令官とは帝本人の署名となる。
「え! こんなものまで……」
まさか、帝が自ら後ろ盾となってくれるとはベルーナは想像していなかった。
「会談の場として非戦闘域を約束したS33中継基地への奇襲攻撃は、星間協定の禁じる『卑劣な戦闘行為』だ。皇城近衛軍は、第3戦団南部方面軍に対して『無制限かついかなる法の制限も受けない』報復を宣言する。直接に交戦したラインゴルドにも、足並みを揃えて欲しい」
「!」
なるほど。やはり、帝の安売りはなさそうだとベルーナも察する。
「わたしでは返事はできませんので、カイザーに伝えます」
この場はそう答えるが、カイザーも承諾せざるを得ないだろう。第1戦団に借りを作ることになる嵯峨州議会もこの要請は断り難い。
月夜見は、本庄郷領の第1戦団を借り受ける交渉で皇城府へ赴いた際に、この覚え書きも用意させたらしい。元婚約者である月夜見の要求を断れず、渋々と署名する父の姿が射流鹿の脳裏を過る。
「南部方面軍だけですか?」
報復対象が、南部方面軍に限定されていることが射流鹿には不満らしい。
「会談を仲介したラインゴルドの面子もあろう」
会談そのものが『日嗣皇子暗殺計画の一部だった』との言い掛かりもつけられるが、それでは仲介したラインゴルドの面子に傷がつく。
その理屈には射流鹿も頷くしかない。
「第3戦団は身内には甘い。同じことを何度でも繰り返す。言い掛かりをつける機会は直ぐに訪れるさ」
月夜見は、また笑い出していた。




