第321話 交渉すべき相手
日嗣皇子の、第3戦団は愚者であると受け取れる発言は、東城准将の自尊心と忠誠心を逆撫でした。
「発言の訂正を求める! 第3戦団を愚者呼ばわりすることは侮辱である」
「訂正の必要はありません。客観的な事実です」
もしも、柳沢大佐が前に立っていなければ……東城准将は、進み出て日嗣皇子の胸座を掴んでいたかも知れない。
「人は学習するものですよ」
「そうだ。だからこそ過ちを行えば悔い、反省し、正しき道を求め進もうとする」
第3戦団には学習ができない。そのように言われたと感じる東城准将は、必死の反論を展開する。
第3戦団は『帝の敵』となったことで、掌を返した傭兵たちによる襲撃や略奪を受けている。捕囚された兵員の身代金支払いに追われて、第3戦団の金庫は空になっている。
そんな中での、中央本部の「皇城府との和解」に向けた努力と苦労を東城准将はよく知っているつもりだった。
「我々第3戦団の兵士とて同じ。いくつかの過ちはあったかも知れぬ。だが、正しき道に戻らんがことを切望している。我々第3戦団の兵は、『帝の敵』とされた今でも、帝より託された帝国の西方域の平和とそこに住まう民の安寧を守るために努力している!」
帝国の西方域は外殻都市が多い。外殻都市は、独自の自治を行うため各々の利害関係が複雑になっている。その調整役となれるのは、西方域を長い期間守護した第3戦団だけだとの自負がある。
「帝国の西方域に住まう民のため、そして正しき道を求める者たちの努力を裏切ることなく導き、後押しする寛容さを示されんことを望んでいる」
西方域の調整役……それが第3戦団の交渉の切り札である。東城准将も、そして柳沢大佐も、それに応じる日嗣皇子の発言に注目した。
「賢者ならば、過ちを許されれば道を正すこともできるでしょう。しかし、愚者は温情を受ければ『罪が許された』ことしか学習しません。そして『自分は罪を犯しても許される特別な者』だと錯覚し増長します。そして、同じ罪を繰り返します」
南部方面軍のことをいっているのか、と思った。
「愚者の集まりでしかない西方域は、帝国には不要ですよ」
東城准将には、日嗣皇子が何を言っているのか最初は理解できなかった。しかし、柳沢大佐は即座に理解した。
(日嗣皇子は、西方域を丸ごと切り捨てるつもりか)
交渉すべき相手を間違えたのだ!
東城准将が揚げ足を取られる前に、この会談を打ち切らねばならない……柳沢大佐は、そう思った。
その時、カイザーの声が聞こえた。
「あと2分です」




