第319話 副官・柳沢真
カイザーによる紹介の言から、柳沢大佐は情報の整理を試みる。
皇城府から『帝の敵』を宣言されて以来、第3戦団には公式な連絡はない。有馬将軍が第2戦団統括司令の任を更迭されたのは噂として聞いたが、大佐への降格を正しく知ったのはこの瞬間である。
「有馬将軍が、大佐へ降格か」
更に統括司令官となる日嗣皇子の階級が少将とは意外だ。第3戦団の周防崎統括司令は大将であり、更迭前の有馬統括司令も大将の階級にあった。
「第4戦団は、他の戦団に比べて極めて小規模なものかも知れない」
柳沢大佐は「羅侯射流鹿」と紹介された若者を見た。男性ながら、太后とよく似ている。大崎中佐が、ルージュピーク演習場で剣を抜いて斬り掛かったのは、この若者なのだと確信した。
そして……それは、南部方面軍がその時点で日嗣皇子暗殺を画策したのを認めることである。
日嗣皇子が、左手に持った軍刀をカイザーに渡した。軍刀を受け取ったカイザーが数歩後ろに下がる。
東城准将と日嗣皇子は、3メートル程の距離で向かい合った。日嗣皇子の直ぐ後ろに、副官の月夜見が立つ。対して、柳沢大佐は東城准将の前に身を置いた。
「畏れながら、日嗣皇子にお伺いしたい」
先に口を開いたのは、東城准将だ。
「何か?」
日嗣皇子は短く応える。
「彼ら7名は、ラインゴルド傭兵機団への投降の意思を示した。それは、ご存じであったのか?」
「ああ」
日嗣皇子の視線が、下へ向いた。その先には大崎中佐の遺体がある。
「このゴミは……声を上げていましたね」
日嗣皇子の右足が、地面に伏した大崎中佐の遺体を蹴り上げる。遺体は転がって、俯せの状態から仰向けとなった。
日嗣皇子はチラリと東城准将の顔を覗くと、その右足で大崎中佐の顔面を踏みつけた。
「!」
思わず日嗣皇子に歩み寄ろうとした東城准将は、柳沢大佐の背中に衝突する。柳沢大佐の目が「落ち着く」ように訴えているのが伝わった。
「星間協定に禁止された『卑劣な戦闘行為』を犯した者には、法の保護はありません。降伏を選択する権利も存在しませんし、受け入れる義務もありません」
「あれが『卑劣な戦闘行為』と決まったわけではない!」
「この会談のために『S33中継基地を中立地帯とし、第4戦団と第3戦団は戦闘行為をしない』旨の約定を、ラインゴルドを立ち合いとして交わしました。中立地帯で先制攻撃を仕掛けてきたのは第3戦団です」
「然るべき理由がある!」
……罠だ!
「日嗣皇子様に、発言の訂正を求めます!」
柳沢大佐は、大声で会話を遮った。




