第317話 カイザーの憂鬱
戦いを生き残ったはずの重甲機兵パイロット7名の処刑が終わるのを見届けたカイザーは、東城准将と柳沢大佐に向き直った。
「では。約束通りに、日嗣皇子との会談に向かいましょう」
「待て!」
東城准将の大声に、カイザーは「ああ、またか」と思う。大人げないと思いつつも、わざとらしくため息をつく。
「彼らは、ラインゴルド傭兵機団へ投降する意思を示したではないか。何故、第4戦団の私刑を見過ごした!」
「ラインゴルドが処刑するべきだった……と言う意味ですか?」
「違う! 投降する意思を示した者を、保護すべきだと言っている!」
カイザー自身、自分は温厚な方であると思っているが、東城准将の「人の良さ」には付き合いきれない気持ちになっていた。
カイザーは右手を上げて、北東方向にあるターミナルビルを指差す。
ターミナルビルの数カ所から黒煙が立ち上っていた。
B級ペルセウスがライフル型ビーム砲を乱射し続けたが、戦艦『胡蝶』が盾となり立ち塞がったこと、そしてラインゴルドのB級ジークフリード6機の活躍で被害は最小に抑えられた。
「南部方面軍は、民間施設であるターミナルビルを攻撃しました。ラインゴルドとしても、星間協定に反する『卑劣な戦闘行為』に対する報復をしなければならない立場です」
「報復などする必要はない! たとえ……敵がどれ程に卑劣であっても、人として法に照らして正しい処遇を行うのが、誇りある軍人ではないか!」
「では。日嗣皇子に対して、法に照らして正しい会談をして下さい」
吐き捨てるようにそれだけを言うと、カイザーは背を向けて歩き出した。
「待て! 話は終わってないぞ!」
カイザーは、東城准将と会話をする意思は失っていた。
もともと嵯峨州議会から「会談の場を、S33中継基地にしないで欲しい」との要請があった。にも拘わらず、身代金などの金塊の輸送や捕虜を解放する手間からS33中継地としたのだ。
S33中継基地の損害は、ラインゴルドで補填しなくてはならない。金銭の問題だけではなく、嵯峨州に対して負い目を作ってしまった。
更に、もっと面倒な問題がある。
戦艦『グリフォン』の下級兵士90人は、金塊を運んだ戦艦『ワイバーン』で第3戦団の勢力圏まで移送する予定だった。しかし、戦艦『ワイバーン』は第1戦団に撃破されている。
下級兵士60人の処遇は宙に浮いている。
この60人を、第3戦団の勢力圏まで移送する手段も用意しなければならなくなったのである。
今のカイザーに、東城准将の相手をする精神的な余裕はなかった。




