第316話 暗殺の報い
7名の生存者の中から大崎中佐が一歩前に出て、日嗣皇子と向かい合う。
旧時代の都市の瓦礫から酸化鉄を巻き込んで流れる風は、血の匂いを漂わせる。その、赤い荒野から流れる風の中に、日嗣皇子は立っていた。
赤椿の変以来、今も血の粛清を続けている太后と瓜二つの顔には、赤い荒野から流れる「血の匂い」が妙に相応しいと感じられた。
ルージュピーク演習場の工廠施設で対峙したときと同様に、この男は左手には軍刀を握っている。対して、自分は敗軍の将であり、全ての武器を取り上げられている。
圧倒的な不利な状況で、年下の若造に過ぎない男の威圧感を強く感じる。正しく表現するなら畏怖と言うべきだが、そうは認めたくない。武装解除され、丸腰状態であるために感じる不安だと思いたかった。
「我々は、ラインゴルド傭兵機団に投降する!」
大崎中佐は、日嗣皇子に対して宣言した。大崎中佐の口元がいやらしく歪む。
(これで、第4戦団は我々に手を出せまい)
ラインゴルド傭兵機団ならば、捕虜と身代金交渉を第3戦団中央本部と行うはずである。少なくとも中佐の上級将校である自分だけは、第3戦団中央本部も身代金交換に応じざるを得ない。解放された後、中央本部に出頭するフリをして、南部方面軍の勢力圏である外殻都市に逃げ込めばいい。
計画が失敗した場合の、最後の保険であった。
「それが何か?」
目の前の、日嗣皇子は静かにそう呟くと人差し指を立てた右手を上げた。そして、その指先が大崎中佐の後方を指す。
3機のB級ジークフリードの胸部から対人レーザー砲が、大崎中佐の後ろにいた6名に向かって撃ち出される。
「な!」
戦いを辛うじて生き残った6人のパイロットは、声を上げる間もなくレーザーに全身を撃ち抜かれて絶命してしまう。
「馬鹿な! 投降した兵員を撃ち殺すなど、星間協定に反する虐殺だぞ!」
日嗣皇子は、大崎中佐の声に耳を傾ける気配はなかった。日嗣皇子の右手が、左手の軍刀に伸びる。
「貴様ぁぁ」
思わず、大崎中佐の右手が日嗣皇子の胸座へ伸びていた。
「……ぐっ」
左の腹部に焼き付くような痛みが走る。伸ばした右手を引き、腹部を触るとドロリとした生暖かいものに指先が滑る。
日嗣皇子の右手は、既に抜き身の軍刀を握っていたのだ。その刃が、自身の左脇腹を貫いていた。
「卑劣な戦闘行為を行った貴男方は、いかなる法にも守られることはありません。その覚悟もなしに、僕に銃を向けたのですか?」
射流鹿の右手が、一旦軍刀を引き抜く。そして、大崎中佐の左胸を再び貫いた。




