第309話 眼前の敵機
東城准将の身体を潰そうと伸びたB級ペルセウスの腕を弾いたのは、御堂のA級0061機だった。
「シェルターに戻って! 早くぅう!!」
Sユニットの青柳は絶叫していた。
任務に忠実であるよう訓練を受けている青柳と言えども、眼前の生身の人間を見捨てて「機体の保全を優先」する程に冷徹になりきれていない。さすがに、この時点の青柳に、11番機での射流鹿の思惑まで推し量る余裕はなかった。
同胞である第3戦団南部方面軍のペルセウス型重甲機兵に殺されそうになり、敵対する第4戦団のジークフリード型重甲機兵に助けられる……そのチグハグな状況は、東城准将は困惑させていた。
それでも「この戦闘を止めなければならない」との使命感は揺らがなかった。
「逃げるわけにはいかんのだ!」
今、戦いを仕掛けているのは南部方面軍のペルセウス型重甲機兵である。そう判断した東城准将は、ペルセウス型重甲機兵を説得しようと、再びペルセウスの視線の先に身体を晒そうと進み出る。
「バカ者ーーー!!」
A級0061機のCユニットで、マウスピースを吐き捨てた御堂が大声をあげる。B級ペルセウスの前に進み出ようとする東城准将に向けた怒声だが、Cユニットのマイクは外部スピーカーには繋がっていない。その怒声は、Sユニットの青柳の鼓膜を叩いただけだった。
「……耳が痛いですぅ」
A級0061機は、東城准将の身体を覆うように上から被さる。四つん這いで蹲まり、腹部の下に東城准将を閉じ込めた。
東城准将に覆い被さったA級0061機は、その背面部を無防備にB級ペルセウスに晒すことになる。B級ペルセウスは副武装の小型戦斧を手に取ると、A級0061機の背中を殴りつける。
カイザー機のSユニットでは、ベルーナが格納庫周辺での戦いをカイザーに報告しようとする。
「11番機、B級ペルセウスを撃破……」
「報告はいらん!」
カイザーは、ベルーナの言葉をぶっきら棒に遮った。
「眼前の敵機に集中しろ」
カイザーは、もう一度ベルーナに厳命した。
眼前のA級ペルセウスは、指揮官機としても優秀だが機兵としても手強い。実戦経験が浅く未熟なベルーナが、周囲に気を配りながら相手をするのは無理だと判断しているのだ。
「ターミナルビル周辺の戦いは、副隊長のマグダスに任せてある。格納庫周辺の戦いは、日嗣皇子が何とかするだろう。俺たちは、A級ペルセウスにだけ集中するんだ」
この、A級ペルセウスを屠れば南部方面軍の部隊は、完全に瓦解する……カイザーにも、その確信があった。




