第301話 俯瞰
青柳に取っては、ナーガオウ州議事堂包囲戦はトラウマである。
実戦任務で、久しぶりに第2戦団の煉獄峡研究所から出た。第2戦団の『朱雀』で、他の兵員と交流するのは楽しかった。殺し合いの戦争への参加であれ、つかの間の『日常生活』だった。
第3戦団とナーガオウ州軍に打撃を与え、作戦は十分な成果を得た。
しかし、作戦終了時に御堂が帰還命令を拒否した。御堂の命令違反に対して、日嗣皇子の11番機はGV3Xをロケット砲で背後から撃った。
爆発の衝撃に、青柳はSユニットで意識を失い、目覚めた途端に再教育のために研究所へ送り返されたのである。
今回も、CRは御堂である。更に……御堂は正規のパイロットでもないし、第4戦団の兵員でもない。
日嗣皇子は、それに気付いているのか?
(いえ、慌てては駄目だ。御堂准尉がわたしの指示に従っている限り、わたしが御堂准尉を守る義務があるんだから)
この場で、A級0061機の被害を最小に抑えて『胡蝶』に帰艦する。今はそれだけに集中することにした。
先行して来たB級ペルセウスの剣戟を、A級0061機は手楯に僅かな角度を持たせることで、その威力を削いでいた。致命の損傷を与えられないことに、B級ペルセウスの動きに焦りの色が滲み出す。
後に追従する2機のB級ペルセウスが迫る。
その一方に、11番機の指示を受けたB級ジークフリードが斬り掛かる。そして、残る1機の前には11番機が立ち塞がった。
11番機を正面にしたB級ペルセウスは、躊躇うことなくロングソードを構えた。
「思い切りのいいパイロットですね」
「ふふん。この状況で、他の選択肢はあるまい」
月夜見は小さく笑う。とは言え、B級機体でA級機体に損傷を与えられるとは考えないだろう。戦うフリをしながら「時間稼ぎ」をするはずだ。
月夜見は、Sユニットから他の3箇所の戦場を俯瞰した。
カイザー機は、A級ペルセウスに手間取っている。
ターミナルビルを攻撃しているB級ペルセウス3機に対して、ラインゴルドは8機のB級ジークフリードで対峙し圧倒していた。B級ペルセウスは、既にターミナルビルへの打撃は諦めて時間稼ぎをしているだけだ。
「A級0061機を守り切れば、この戦いは終わりだな」
第4戦団のB級ジークフリードは、B級ペルセウスを1対1の体勢で抑えている。B級ペルセウスを1機でも撃破できれば、この均衡は崩れて南部方面軍は一機に崩壊するだろう。
カイザー機がA級ペルセウスを撃破するのを待つより、そちらが実現する可能性の方が高そうである。




