第297話 SVの使命
「了解しました。A級0061機の保護を優先します」
複座型重甲機兵での指揮権は、本来のSユニットにある。11番機で、射流鹿が指揮を振っているのも「月夜見から射流鹿へ指揮権を移譲している」と言う建前があってのことだ。
規律に対して厳格な射流鹿は、月夜見からの指示には、たとえ『意に反する』ことでも従う。
容姿も気性も母である太后にそっくりな射流鹿が、父・水蛭鹿帝から引き継いだ「他者に厳しいが自分に対しても厳しい」部分である。
射流鹿の嫡流たる面を垣間見た月夜見は、ほんの少し口元をほころばせた。
「何か?」
ベッドセットから聞こえた月夜見の笑い声に、怪訝に思った射流鹿がSユニットに問いかけた。
「いや、何でもない。A級0061機に搭乗しているパイロットも優秀だ。優秀なパイロットを失うのは、A級機体以上の損失になる」
イレギュラーな御堂はともかく、青柳礼子は、月夜見が第2戦団で才能を見出して長い時間を教育してきたSVである。月夜見としては、絶対に失うわけにはいかなかった。
A級0061機のSユニットでも、青柳が様々なパターンで思考シミュレーションを行っていた。その上で「現状維持」を最良の策として選択する。
「攻めに出たとしても、今のA級0061機では、敵に致命の一撃を与えられる可能性は低いです。可能な限り現状を維持して時間を稼いで下さい」
「時間を稼いで、何とかなるの?」
A級機体に初めて搭乗した御堂は、実は事実誤認をしていた。
(調整不良でもA級機体なんだからB級機体より優位では?)
「こっちはA級機体なんだよ!」
「A級機体とB級機体のハードウェアには、根本的な差はありませんよ。B級機体はZCF機関の発電量が小さく、それを補う補助バッテリーの重量の分だけ出力重量比が劣るだけです」
パイロットとの和合率を強制的に補正するため、操縦に対する追従性も下がるが、細かい説明をしている暇はない。
「だからこそ、ナーガオウ州議事堂包囲戦で御堂准尉は、ガルーダ部隊のA級ジークフリードをB級のGV3Xで撃破できたんです」
「……」
言われてみれば、その通りである。同じくB級のGS4型機でA級ペルセウスに勝ったこともある。青柳に指摘されて、御堂は納得せざるを得なかった。
「今、格納庫前で戦っているのは第4戦団のB級ジークフリードです。僚機を信用して下さい」
最悪、Cユニットを射出して御堂だけでも逃がす……青柳はSユニットで、非常時に備えたプログラムを登録した。ネロが、嵯峨州解放戦で取った行動と同じである。




