第292話 A級機体、滑空
南部方面軍のB級ペルセルスは、御堂のA級機体を妨げようとはしなかった。
南部方面軍のB級ペルセルスとラインゴルドのB級ジークフリートの交戦を横目に見ながら、御堂は格納庫へ向かって機体を滑らせる。
ターミナルビルは陸艦港に隣接しているが、空中移送機の発着路とは3キロメートル程度離れている。通常は、発着路とターミナルビルの間は輸送車両で移動する。
脚部と腰部の副推進装置で機体を浮かせたA級ジークフリートは、時速20キロメートル程度の速度で滑空していた。通常の半分ほどの速さである。
「はぁ……う」
胸元まで水に浸かった状態で、川の流れに逆らい上流に向かって走るような抵抗に、御堂の口から呻き声がもれた。
「移動は、わたしが運動制御を代わります。呼吸を整えておいて下さい」
「ありか……とぅ」
青柳の指示に「ありがとう」と返事をしたつもりだが、御堂の喉と口に力が入らなかった。Cユニットの照明が落ちて、身体にのし掛かっていた重しがなくなる感じがした。
「同調調整できた機体なら、スキーを滑るくらいの感覚なのに!」
身体にのし掛かる重しがなくなると、御堂の口が急に滑らかになる。
「私はスキーをしたことがありませんので、その比喩は理解できません」
「じゃあ、オートバイ!」
「……」
青柳からの返事が止まった。
少し「付き合いが悪くなったのではないか」と御堂は思ったが、青柳は機体軸を維持するための副推進装置も同時に行っているを思い出す。
更に手楯装備での出撃である。巨大な楯の空気抵抗も計算して、運動制御まで引き受ける今の青柳は手一杯仕事であった。
御堂と青柳が到着する前に、空中移送機の発着路周辺での戦局は変化していた。
ラインゴルドを足止めするために格納庫にビーム砲を連射していたB級ペルセウスは、第4戦団のB級ジークフリードと交戦状態に突入した。
「日嗣御子が、自分より避難者を守らせたのね」
「日嗣皇子の意図はわかりませんが、11番機の護衛よりB級ペルセウスの排除を優先したのは間違いないと思います」
発着路脇の格納庫の前で盾となっていたアリス機とネオン機のところへ、御堂と青柳のA級機体が到着した。アリス機とネオン機のバックパックに触れて接触通信の回線を開く。
「第4戦団所属のA級0061機です。非戦闘員が避難した格納庫は、この機体が守ります。そちらは戦闘に参加して下さい」
「了解!」
「了解です」
両機からの返信を受け取った青柳は、御堂に運動制御を移譲した。そしてZCF機関が甲高い駆動音に切り替わる。




