第291話 自分との約束
御堂が『自分の悪夢』と葛藤している間に、左舷デッキの天蓋は開いている。A級0061機のZCF機関は、太陽光を取り入れて十分な動力を供給していた。
「面頬下げます」
重甲機兵の兜から、顔正面と喉元を保護する装甲を引き下げる。既に左腕のアタッチメントには、重甲機兵用の大型楯が装備されている。幅7メートル、高さ15メートルの長方形は、重甲機兵の機体を盾に隠せる大きさであり、複数の合金を重ね合わせて衝撃を吸収するように設計されている。
「A級ジークフリード、出ます!」
A級0061機の背面にある主推進装置が点火し、機体を左舷デッキから飛び立たせた。少し遅れて脚部と腰部の副推進装置が起動……中空での機体軸を保ちつつ、大地への着陸の衝撃をやわらげる。
「B級ペルセウスに構わず、非戦闘員が避難している格納庫へ向かって下さい」
「了解」
サブモニターに、補助カメラが捉えたB級ペルセウスの映像が映っている。突然に現れたA級機体に困惑しつつも6機の統制は乱れていない。
「B級ペルセウスの目的は、S33中継基地のターミナルビルもしくは戦艦『胡蝶』に損傷を与えることです。敢えて、このA級機体を狙ってくることはないはずです。対応は、ラインゴルドのB級ジークフリードに任せましょう」
とは言え、指示を出す青柳も「未調整の機体」だと敵側に知られたら面倒なのはわかっている。この状態を例えるなら「競泳用水着の水泳選手と、振袖を着て重い荷物を背負った状態で、水の中で戦う」以上のハンディがある。
「敵が『ラインゴルドや第4戦団へのより大きな損害』とするなら、未調整のA級機体は格好の攻撃目標になります。未調整を悟られないように移動して下さい」
「了解です。手楯に機体を隠したまま格納庫へ向かいます」
SVである青柳の指示に、御堂は素直に従った。
御堂の返事に、青柳は胸を撫で下ろする。敢えて「攻撃目標になる」可能性を伝える必要はなかった。御堂の猪突猛進な性格を考えれば、明らかな指示ミスになる可能性もあった。
「まだまだ甘いですぅ」
一瞬だけ、独り言の語尾が変になってしまう。
御堂の脳裏にも「ワザと攻撃目標になって戦闘に突入する」選択肢が浮かばなかった、と言えば嘘になる。
しかし……戦艦『胡蝶』は「ターミナルビルに被害を出さない」ために艦体を盾にしている、ラインゴルドの2機は「格納庫に避難した非戦闘員」の盾になっている。
今は、御堂が自分と約束した「誰かを守るための戦い」をする時だと思えた。




