第287話 左舷デッキ
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!」
左舷デッキ下部にある重甲機兵の整備台で、御堂は大声をあげながら転がった。ビームの直撃を受けた『胡蝶』の艦体が大きく揺れたためだ。
「おい、勝手に動くなよ」
左舷デッキの整備スタッフに身体を支えられて、御堂は上体を起こした。
「立たないで、そのまま座ってて動くな。まだまだ戦闘は続きそうだからな」
整備スタッフの履いている軍靴は、靴底に滑り止めの加工がなされている。
あくまで面接のつもりで『胡蝶』に乗り込んだ御堂は、ラフな私服で普通の運動靴を履いている。本当なら、工廠部門の周辺をうろつくのは邪魔なだけである。
この日に、日嗣皇子と第3戦団中央本部幹部の会談が行われるのは来客扱いの御堂にも知らされてはいた。御堂自身は「平和的な会談」と信じていたので、勝手に青柳のA級ジークフリード調整作業を見学に来ていた。
……ゴオォォォン
……ギジッギジッ
……ギジッギジッ
ビームが直撃する度に爆音が整備台を揺らし、戦艦の龍骨を軋ませる。
戦艦『胡蝶』は、対重甲機兵の戦闘に突入していた。しかし、搭載された重甲機兵は予め艦外へ出しているため、3つのデッキは共に戦闘態勢ではなく待機を命じられている。
左舷デッキでは、青柳をSユニットに登場させたままA級ジークフリードの調整作業が続けられていた。
「ねえ、この機体を出撃させないんですか?」
御堂の問いかけに、整備スタッフは顔を見合わせる。主任技師である奥永竜司大尉が、押し黙る整備スタッフの代わりに口を開く。
「SVの調整はある程度済んでいるから、出すだけなら出せるさ。しかし、CRがいないんだ。戦闘はできない」
複座型重甲機兵のSVは、機長に相当する立場ではある。しかし、青柳自身はあくまで管制官に過ぎない。機体を動かすことに特化したCRが必要である。
「あたしが乗ります!」
「……はあ?」
突拍子のない申し出だが、奥永主任は特に驚かなかった。第2戦団の興田主任と個人的に親しくしている奥永は、御堂の「人となり」に関して興田から聞き知っていた。
曰く「馬鹿で考え無しで、誰かが支えてやらないと何もできない。しかし、何となく放っておけなくなってしまう」とのこと。
興田が御堂を可愛がり、才能を評価していたも知っている。
壁のモニターには、艦外での戦いの様子を捉えたカメラ映像が流れている。
B級ペルセウスの目的は、S33中継基地の機能を失わせることらしく、ターミナルビルに向かってビームを放っている。
御堂は、その戦い方に憤っているのだろう。




