第283話 1分未満
「な……なんだ? どうするつもりなんだ!」
大崎中佐が「1分間」を宣言してから、40秒が経過した。
日嗣皇子の11番機は、眼前に迫っている。しかし、手にした武器を捨てての丸腰である。「待つ」と宣言した自らが、丸腰となった機体を攻撃していいのか?
しかし。
手を伸ばせば届く距離にまで接近された状態で、攻撃を仕掛けられたら躱しようがないのだ。
「ラインゴルドのA級およびB級も位置を変えています!」
与えられた時間内に移動したのは、11番機だけではない。カイザー機も、対峙していたA級ペルセウスとの距離を詰めていた。
そして、第4戦団とラインゴルドのB級ジークフリードもだ。
45秒経過。
大崎中佐の額を冷たい汗が流れた。
……万が一、先に攻撃を仕掛けられたら!
大崎中佐の脳裏には、一方的な攻撃で「部隊の壊滅」する様子がよぎった。
48秒経過。
流れる1秒間が異様に長く感じる。口の中は乾いて、肺に通じる気道が冷たく、呼吸の度に締め付けられるような違和感がした。
11番機の機体から、光粒子が流れ出す。ZCF機関が出力を上げて、各駆動部へ流れる電流を増加させたのだ。
……攻撃されてしまう!
GV3型機のメインモニターに映る11番機……頭部の兜の下、顔面部分を保護する面頬の奥で右の機械眼球が輝くのが見えた。
「うおぉぉぉぉ!」
52秒が経過した時に、GV3型機は、11番機に打刀で斬り掛かっていた。しかし、斬撃に威力を乗せるには、両機の距離は近すぎた。11番機の左手は、GV3型機の打刀の鍔元を抑えて刃を止めてしまう。
「し……しまったぁ!」
反射的に剣を振るってしまったことを、大崎中佐は後悔した。何とか体裁を整える「言い訳」をしなければならない……外部スピーカーに通じるマイクに向かおうとしたが、既に遅かった。
11番機の右手が、GV3型機の左腕を強打する。衝撃で右掌駆動部の電圧が低下し、右掌の握力も下がる。11番機は、GV3型機からあっさりと打刀を奪い取っていた。
奪われた打刀の剣先が、GV3型機の鳩尾の辺りに突き立てられ、その内部を抉る。鳩尾から突き立てた打刀は、背骨に相当する主骨格まで届いてそれを砕いた。
GV3型機の駆動音が一瞬だけ甲高く唸り、そして重く低いノイズ音になり停止する。
……カチン
……カチン
緊急停止で強制冷却されたZCF機関が乾いた音を響かせた。
11番機は、GV3型機から打刀を引き抜く。GV3型機は、発着路のアスファルトの上に両膝を付いた。
まだ1分間は過ぎていなかった。




