第282話 1分間
『1分間の猶予を与える。日嗣皇子は重甲機兵から降りて、第3戦団中央本部の東城准将との会談に応じよ。さもなければ、日嗣皇子は平和的解決を否定したものと判断し、我らは戦闘を継続する!』
大崎中佐には「日嗣皇子が、この申し出に応じざるを得ない」との目算はあった。
「会談場所をS33中継基地とすることに、嵯峨州議会がクレームを入れたとの情報がある。これでS33中継基地ターミナルビルに戦いの被害が及べば、ラインゴルドも皇城府も面目が立たなくなるはずだ」
無論、大崎中佐に『会談』を成功に導く腹づもりなどない。日嗣皇子が生身で降りて来れば、東城准将を道連れにしても殺すつもりでいる。
ルージュピーク演習場で『日嗣皇子暗殺に失敗』した大崎中佐は、第3戦団が皇城府と和解できてもも、自身の罪を逃れられる可能性は極めて低い。
日嗣皇子を亡き者とし、皇城府の帝位継承を揺るがして、盛り返すであろう反帝派勢力の中で然るべき地位を確保するしか生き残る道はない。
「会談を口実に日嗣皇子を誘い出し暗殺したとなれば、さすがに皇城府は捨て置くまい。それに与した罪で第3戦団は崩壊するだろうが、それも仕方あるまい」
第3戦団が無くなれば。新しい器に入ればいいのだ。反帝派勢力は、新しい武装組織を必要とするはずである。現第3戦団の兵員は、数万人が命を失い、また路頭に迷うだろうが知ったことではない。
「第4戦団の『胡蝶』が移動していますが?」
ラインゴルドのベルーナにかなり遅れて、GV3型機の佐藤大尉は戦艦『胡蝶』の動きに気付いた。
11番機は、ゆっくりと歩き始めた。向かう先は大崎中佐のGV3型機である。
「……まさか」
脳裏をよぎる不安と恐怖に、大崎中佐の顔が強張った。
……ガチャン
11番機が、手にしていた太刀を投げ捨てた。
「ふ……ふははは」
大崎中佐は勝利を確信した。この土壇場での賭けに勝った……思わず笑いが込み上げてくるのを抑えられなかった。
11番機は、GV3型機の周囲を固めたはずのB級ペルセウスの間を通り抜けて歩いて行く。B級ペルセウスはロングソードを構えるが、11番機は全く意に介さないでGV3型機に近づく。
「攻撃をしてくれば、それで嵯峨州への言い訳は立ったのですが……自重していますね」
「まともなパイロットなら、重甲機兵が主武装を捨てたところで副武装を警戒するものだ。無闇には近づかぬ」
月夜見の言葉が終わらないうちに、11番機はGV3型機の眼前に立っていた。手を伸ばせば、相手の機体に触れる距離である。




