第281話 大崎中佐の交渉
「馬鹿な! 第1戦団が、どうして?」
撃ち上がった髙高度用の信号弾を見て、大崎中佐は慌てた。
「日嗣皇子の戦艦『胡蝶』は、第1戦団の本庄郷基地に停留していました。日嗣皇子が応戦態勢を整えるとしたら、第1戦団に応援を依頼するのは考えられます」
「……くっ!」
Sユニットの佐藤大尉は、冷静な分析を報告する。想定して然るべきはずだった事態であり、それを想定していなかったのは大崎中佐のミスであった。
自らが帰艦するはずの陸上戦艦が、第1戦団に強襲された……この事実に、ペルセウス型重甲機兵のパイロットは動揺している。
連中は、南部方面軍の兵員ではない。帝国内の反帝派勢力に協力する外国勢力からの増援に過ぎない。ナーガオウ州議事堂包囲戦と嵯峨州解放戦で、消耗した南部方面軍には自軍の重甲機兵はほとんどない。
「外部スピーカーをオンにしろ。日嗣皇子と交渉する!」
大崎中佐の指示を受けて、佐藤大尉はCユニットの音声を外部スピーカーに繋げた。
『日嗣皇子に警告する!』
S33中継基地の発着路に、大崎中佐の声が響き渡った。
『我が南部方面軍は、東城准将と日嗣皇子の会談に際し、その立ち合いと捕囚された『グリフォン』搭乗員の身柄の引き渡しを受けるために来ただけである。我らは、ラインゴルドの重甲機兵により威嚇され、応戦を余儀なくされたのである』
大崎中佐の弁舌が始まると、ビームを乱射していたB級ペルセウスも動きを止める。S33中継基地は重い沈黙に包まれた。
『日嗣皇子に平和的な解決を求める意思があるなら、兵を退き、当初の会談に応じることを求める。さもなくば、不本意ながら我らは戦闘を継続せざるを得ない。このS33中継基地およびターミナルビルが戦火に巻き込まれる可能性もある』
ターミナルビルは、中継基地としての中枢施設である。今日の会談のために民間人の出入りは禁じてあるので、民間人の人命に関わる被害はないが、これを失えばS33中継基地の機能は半減する。
「ターミナルビルを、しっかり人質にしてきますね」
ベルーナの声にも呆れが滲み出ている。会談のために丸腰で日嗣皇子を誘い出し奇襲を仕掛け、不利になった途端に「ラインゴルドに責任転嫁」し掌を返す……更に民間施設を人質として脅しをかけてくるのは、新人のベルーナには唾棄すべき行動と思えた。
「第4戦団の『胡蝶』が移動しています!」
いつの間にか戦艦『胡蝶』は、S33中継基地ターミナルビルの前に移動していた。南部方面軍の重甲機兵から、ターミナルビルの盾となる位置である。




