第278話 カイザーの独り言
A級ペルセウスは、右腕に握るロングソードを捨てて副武装の戦斧を取り出す。この近距離なら、戦斧による打撃の方が有利と判断したのだろう。
小さな装甲板を編み込んだ草摺を素体に取り付けたジークフリード型の装甲は、中空式のプレートで素体を包み込んだペルセウス型の装甲よりも防御力は低い。更に搭載するZCF機関の最大出力もペルセウス型の方が上である。
「瞬間出力もペルセウス型の方が上です。力比べも不利ですよ」
相変わらず他人事のように客観的事実を述べるベルーナ。
「だったら、距離を取って仕切り直す方法を考えろ!」
思わず、カイザーは大声を上げていた。
「では、上体を左に捻って、右肩を敵機の顔の近くに寄せて下さい」
ベルーナは暢気な声で指示をしてくる。取り敢えず、指示された通りに右肩を突き出すように上体を捻った。
カイザー機の右肩が爆発して、右肩部装甲が弾け飛んだ。
「!」
ベルーナは、非常時に肩部装甲を排除する機構を作動させたのだ。火薬による爆発……その白い硝煙がA級ペルセウス頭部の機械眼銃の視界を遮った。
レーダーなどの電磁的索が使えない重甲機兵は、機械眼球が捉える有視界での映像で戦うしかない。硝煙で視界を遮られたA級ペルセウスは、主推進装置と副推進装置を全開にしてカイザー機から距離を取る。
「先に言え!」
右肩部装甲を吹き飛ばした反動で、カイザー機もバランスを崩して片膝をついていた。
適切な状況判断ではあるが、段取りは悪い。更に、CRの神経を逆撫でするような物言いもあり……この新人に、経験を積ませて、教育するには手間が掛かりそうだと思う。
部隊の指揮には『号令』と『命令』と『訓令』がある。
『何を目的として、どのような行動を取るか』
目的と行動を示すのが『命令』であり、目的のみを示して行動を末端に任せるのが『訓令』である。逆に、目的を示さずに行動だけを示すのが『号令』だ。
無線通信が使えない重甲機兵の運用は、信号弾で端的に指示せざるを得ないために『号令』になりがちである。
しかし、ここでのカイザーのCユニットとベルーナのSユニットは有線通信で繋がっている。目的と行動を、細かく伝達できたはずだ。
「いや、そうでもないな」
先手を取られた分だけ不利な状況でも、妙に落ち着いた態度は肝が据わっている。それだけでも評価していいし、敵機に目潰しを仕掛ける機転はなかなかだ。
「はい? 何か、わたしやっちゃいました?」
Sユニットからは暢気の声が返ってくる。
「独り言だ。気にするな」




