第277話 カイザー機
カイザーとしては、故意に間をおいて敵機に帰還する機会を与えたかった。
GV3型はともかく、他のペルセウス型重甲機兵は、おそらく同業の傭兵と思われる。傭兵同士の暗黙の了解として「自軍の消耗を避けるために、余計な戦闘を回避する」との不文律もある。
しかし、戦いの火蓋を切ったのは、A級ペルセウスの方だった。
正面のA級ペルセウスが、カイザー機にロングソードを突き出す。もう一機は腰と脚部の推進機関で機体を浮かせて、カイザー機の後ろへ回り込む。
「退かないつもりか?」
前後からの挟撃を警戒するが、第4戦団のB級ジークフリードが、カイザー機の後方に割って入る。後方に回ったA級ペルセウスは、3機のB級ジークフリードにあっさりと足止めされた。
(アリスやネオンより、第4戦団の方が機敏に動くとはな)
飛び道具を持ったアリス機とネオン機を後方に置いたのは、敵のこんな動きを牽制させるためだったはず。カイザー隊のB級よりも、第4戦団のB級の方が適切に連携するのが悔しい気もした。
「アリスとネオンは、第4戦団のB級を支援しろ。俺は、前方のA級ペルセウスを片付ける」
カイザー機のバックパックから信号弾が上がると同時に、正面のA級ペルセウスは後退して距離を取った。間合いから外れた距離を確保し、ロングソードを肩の高さに構える。
カイザー機も、腰と脚部の推進装置で機体を浮かせながら、下げた剣先をゆっくりと正面に向ける。
A級ペルセウスの背中が目映く発光する。バックパックの主推進装置フル出力で、一機に距離を詰めてくる。
「上です!」
僅かに遅れて腰と脚部の推進装置が発光したのを、ベルーナは見逃さなかった。およそ10メートルの高さを上に跳躍して、A級ペルセウスは真上からロングソードを振り下ろす。
カイザー機は、腰を沈めてロングソードの刃と距離を広げて斬撃の芯を外す。ジークフリード型重甲機兵の最も強固な肩部装甲が、ロングソードを弾いた。
しゃがみ込んだ体勢から、カイザー機が機体の弾機を効かせて立ち上がる。
……ガチン!
2機の重甲機兵は、互いの頭部を衝突させて硬質な金属音を響かせた。
「体当たりは、機体重量の軽いジークフリード型の方が分が悪いです」
他人事のような指摘が、ベルーナから入った。
「わかってる!」
A級ペルセウスとカイザー機は、互いの兜部分で押し合いをする程に密着していた。装甲の擦れる振動と鈍い擦過音がコクピットに伝わってくる。
先に後ろの引いた方が、次の動作で出遅れる。双方ともに引き難い体勢となっていた。




