第276話 応戦
「11番機、戦闘モードへ移行しまた」
外界の音響と気流を拾っているベルーナは、11番機の駆動音が、低いノイズ音から甲高いジェット音に変化したのを確認する。
腰の太刀を抜く11番機の装甲の隙間から、光粒子が流れ出す。ジークフリード型重甲機兵が搭載する『光放熱機構』は、機体に発生する熱を光に変換して放出することで、熱によるハードウェアへの影響を最小に抑える働きがある。
「日嗣皇子が11番機に搭乗した以上『生身の日嗣皇子を襲撃する』と言う南部方面軍の目論見は失敗だ。これで諦めて、戦力を退いてくれればいいが」
カイザーとしては、これ以上交戦しないで済むのが一番有り難い。このまま退却してくれるのなら、追撃せずに見逃すつもりだった。
しかし、第4戦団の3機のB級ジークフリードは、カイザーが対峙していたA級ペルセウスの退路を断つかのように取り囲んだ。11番機も、こちらへ向かってゆっくりと歩き出している。
「日嗣皇子は、この戦場にいる重甲機兵を逃がさないつもりか」
傭兵としては、可能な限り自軍の消耗を避けたい。戦力を衝突させずに『勝利』の名目を得られるのが最良である。
しかし、正規軍である第4戦団は『敵を消耗させる』ことが目的になる。
11番機の機械眼球が、2機のA級ペルセウスの後ろにいるGV3型B級ジークフリードに焦点を合わせた。面頬の奥の機械の右眸が冷たく光る。
ここに布陣する6機の重甲機兵は5機がペルセウス型で、ジークフリード型はこの1機のみだ。この機体が南部方面軍の正式な機体で、幹部将校が搭乗しているものと推測できた。
「敵の指揮官機は、あれですか」
「機体番号はGV3B299か。CRは大崎ケン中佐、SVは佐藤優大尉と記録されているな」
大崎ケンの名前に、射流鹿は聞き覚えがあった。
「ルージュピーク演習場の工廠施設で、僕に斬り掛かってきた将校ですね。その後のナーガオウ州議事堂包囲戦には参加していなかったんですか?」
「ルージュピーク演習場に指揮権を移管する交渉に向かった直後に、入院した記録が残っている。ナーガオウ州議事堂包囲戦には参加していない」
「ああ、そうでしたか」
斬り返した剣先に手応えを感じたのを思い出した。その傷で入院した結果、ナーガオウ州議事堂包囲戦を生き延びたと言うことか。
「6機の重甲機兵を運んだ空中移送機は、すぐに戻りました。おそらく第二陣を運んでくるつもりでしょう。第二陣が到着する前に、6機を撃破します」
射流鹿は、敵戦力の殲滅を決めていた。




