第229話 誰かを守るための戦い
『近衛軍は、帝国民を守るためにあるの! 違うって言っても、そうなるのよ。絶対に、そうなるの! あたしが近衛軍の幹部になって、内側から近衛軍を変えてあげるから!』
今となっては、途轍もなく昔のことに思える3軍合同演習。砂糖入りブラックコーヒーを受け取りながら、入鹿と交わした会話だった。
「玲とは、しっかり約束したわけじゃないです。でも……あたしは、あの時に『本気でそうしよう』って思ったんです」
ナーガオウ州軍、イルドラ公国軍そして第2戦団による3軍合同演習……フラッグ戦の前日に、入鹿と交わした会話を、御堂は刀自古に伝えた。
「あたしのせいでネロさんを死なせてしまいました。その、ネロさんのおかげで、あたしはこうして生き延びているんです。本当なら生き延びた命で、その恩を返すべきだと思います」
御堂は言葉を一旦切る。
「でも」
刀自古は、御堂の話を黙って聞いていた。お花畑脳に付き合わされた「入鹿玲」に同情しつつも、御堂の迷う理由は何となくわかった気がする。
「ラインゴルドは、あくまで傭兵部隊ですからね。『誰かを守る』ために戦う集団では、決してありません」
「はい」
刀自古の言葉に、御堂は反射的に顔を上げる。誰かを守るために戦う……その思いを刀自古が言葉にしてくれたことに少し嬉しくなる。
「とは言え……近衛軍は、御堂咲耶を採用しません」
「……」
「万が一、御堂咲耶を採用したいとの意見があっても、安全保障局が身元調査を行う際には、妾が『不適格』と判定します」
「貴女が原因ですか!!!」
やはり、この女は天敵だ……と御堂は再確認する。
「士官大学の進路希望の書類で、配属希望欄に『第4戦団』と記入したらエラーが出て提出できなかったんですよ。それも、相楽行政官のせいですか?」
士官大学の進路希望の件は、刀自古も初耳だった。
「いくら妾でも、そんなローカルな嫌がらせはしませんよ?」
「グローバルにされるより、ローカルでされる方がマシです!」
大声を上げ始めた御堂を無視して、刀自古は少し考え込んだ。
「第4戦団は、他戦団からの移籍も含めて、おそらく募集をしていないのでしょう。月夜見様が一人一人声を掛けて回っているようですから」
「有馬将軍が?」
「降格されたので、今は大佐ですよ。あの、人を見る目がない女に人選を任せるなんて……大兄様が心配でなりません」
「人を見る目がない女って……酷い言い方ですよ?」
月夜見の『才能を見る目はあっても、人を見る目がない』を決定づけたのが御堂の存在だったのを、御堂本人は知らない。




