第228話 ネロへの借り
本年度の数少ない卒業生……その言葉に、御堂の身体がビクリと震えるのを、刀自古は見逃さない。
御堂は、近衛軍の正式配属の辞令を受けていない。このままなら、正規の近衛兵とはなれないことになる。
但し、特段珍しいことではない。
士官大学を卒業しても、敢えて近衛軍に入らず、各々の都市国家の防衛軍や守備隊に入る者は多い。私設の傭兵団も選択肢になるし、軍務に就かなくても構わなない。
第2戦団に仮配属された御堂の戦績は素晴らしい。士官候補生の枠を超えて、准エース級の戦績を挙げている。しかし、度重なる命令違反を重く見た近衛軍は御堂を採用しなかった。
「実は……ラインゴルド傭兵機団から、お誘いを受けました」
トイレを我慢しているかの如くモジモジと身体を揺すっていた御堂が、意を決して言葉を繋いだ。
「え?」
刀自古の声が裏返る。驚愕、と言うほどの驚きであった。
嵯峨州解放戦は、ラインゴルド傭兵機団が嵯峨州の要請を受けて行われた作戦である。嵯峨州と地理的に近い本庄郷領の第1戦団と連携するはずだった。
そこに月夜見が割り込んで、強引に第2戦団の旗艦『朱雀』とGV3Xを参加させたのである。
作戦そのものは成功し、嵯峨州を圧迫していた勢力を駆逐・壊滅した。
しかし、ラインゴルド陣営の指揮を取ったネロ副機団長が戦死。ラインゴルド傭兵機団は大きな損害を被る結果となる。
「ネロさんを戦死させたのは、また貴女の命令違反が原因でしたね」
刀自古の指摘に、御堂は黙って頷く。
「バッテリー残量がゼロに近い状態ゆえに、後退するよう命じられた。それを無視して敵のA級機体と交戦。そしてバッテリーがゼロとなりGV3Xは強制停止して大破……そうでしたね」
もう一度、御堂は黙って頷いた。
「本当なら軍法会議すら行わずに極刑になるべき命令違反です。貴女が責任能力のない士官候補生であること、作戦指揮官であるネロさん自身が貴女を生かすために最大限の対処をしていたこと……その、ネロさんの『遺志』を汲み取った結果として、貴女は処分を免れました」
御堂の顔が下を向く。頷いたのではない、俯いたのだ。
「そうですか。ラインゴルド傭兵機団が、貴女を受け入れると申し出てくれたんですね」
ネロはGV3Xが撃破される直前に、御堂を脱出させた。そして自らは機体に残って敵機を牽制しようとした。
今の御堂の命は、ネロの命と引き換えに残されたようなものだ。
「でも、迷ってるんです」
御堂は、上目遣いで申し訳なさそうに呟いた。




