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赤塵のサンダーバード -機兵戦記-  作者: 星羽昴
第八章

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第226話 途轍もない借り

「サクヤ!」


 エリカの顔があった。そして、少し離れたところに新藤中尉もいる。

 赤塵の丘ではない……蛍光灯に照らされた室内だった。ネロも、入鹿も、青柳もそこにはいなかった。

(夢か……当たり前だよね)

 ネロの棺の前で意識を失い、戦艦『朱雀』の医務室へ運び込まれたのである。

 ベッドの中の御堂の身体は強張ったままで、起き上がることができなかった。

 視界の隅にいた新藤中尉が、エリカの傍に行き一言二言の言葉を交わす。そして、新藤中尉は医務室を出て行った、

 2人の会話は聞こえなかったが、エリカの頷く様子から何となく察せられた。


「はい。顔を拭いてね」


 エリカが御堂の枕元にハンカチを差し出した。御堂の両目から、涙が流れ出していたことに今更気付いた。

 強張った身体に恐る恐る力を込めて、ベッドから上半身を起こす。肩や首の関節がポキリと音を鳴らした。

 ありがとう……そう言おうとしたが、喉が振るわなかった。

 エリカの差し出したハンカチを受け取ろうと右手を伸ばすと、その右手は白いスカーフを握り締めていた。

 ネロの首から上を隠していたスカーフだ。


『だって……こうなってしまいますから』


 御堂の脳裏に過ったのは、夢の中で自身の首を手に持っていたネロだった。


『だって……こうなってしまいますから』


『だって……』


 ネロの声で、その言葉がずっと繰り返される気がした。



 帝国の首都・不死鳥(きょう)。皇城府の北側にある太后おおきさきの庭園で、月夜見は『嵯峨さが州掃討戦』の報告を受けていた。

 ネロの戦死を聞いた月夜見は、言葉を失い暫し動けなかった。


「ラインゴルドに途轍もない借りを作ってしまったな」


 ようやく絞り出した声で、月夜見は小さく呟いた。月夜見の向かいに座す太后も、黙するしかなかった。

 太后も、水蛭鹿ひるか帝の専用機である21番機のSVとして、白菊の変から戦い抜いてきた。もしも、CRであった水蛭鹿に危機が迫れば、ネロと同じ行動を取っただろう。

 そして、射流鹿いるかの専用機である11番機のSVを務める月夜見も同じである。


「ラインゴルド傭兵機団には、素晴らしいSVが育っていたのですね」


 SVの最優先任務は、CRの命を護ることである……それが、月夜見が示してきたSVの絶対の使命だった。


「そうだ。私やお前を超えるSVになるはずだった」


 ラインゴルド傭兵機団には、ネロに続くSVも育っているはずだ。13番機は新たなSVを得て、戦線に復帰するだろう。

 しかし、失われた命と才能は、埋め合わせできるものではない。


-第八章 終わり-

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